Kirisame Eversion

love-potion


Featured in: 密
track: 11(13)
arrangement: RD-Sounds
lyrics: RD-Sounds
vocals: めらみぽっぷ
original title1: 魔法使いの憂鬱
original title2: Witch of Love Potion
length: 06:24


◇概要

『密』トラック11。後にメロンブックスコンピレーションアルバム『東方PARTYBOX03』へ伴奏にアレンジが加わった同楽曲が再録されている。

”Kirisame” はその名の通り、本楽曲の主役である霧雨魔理沙を表しており、”Eversion” は「裏返しにする」、「外側にめくり返す」といった意味を持つ名詞である。アルバム『密』のテーマは「秘密」であることから本楽曲は「霧雨魔理沙の秘密」をテーマとしていると読み取れるため、”Eversion” には霧雨魔理沙が普段は内面に隠しているものを「裏返しにする」といった意図が込められているのだろうか。

原曲『魔法使いの憂鬱』は、霧雨魔理沙が各キャラクターの弾幕について彼女目線で考察している本『The Grimoire of Marisa』に付属したCDに収録された曲であるため、この曲は霧雨魔理沙のテーマとして捉えることができよう。彼女のテーマ曲としては『恋色マスタースパーク』がメジャーであるが、これと比較すると『魔法使いの憂鬱』はダウナーでしっとりとした曲調である。『The Grimoire of Marisa』では冗談交じり(本当に冗談なのかはさておき)ではあるものの各弾幕の避け方や特徴を真面目に考察しており、霧雨魔理沙が普段見せない「努力家」の部分が強く表れている。いや、普段の霧雨魔理沙こそ本当は「努力家」なのだろう。『恋色マスタースパーク』と違って『魔法使いの憂鬱』はそういった霧雨魔理沙の素の部分が表現されているように思え、『密』のテーマ「秘密」とタイトルの ”Eversion” にマッチしている原曲と言えよう。

もう一つの原曲『Witch of Love Potion』は霧雨魔理沙のテーマというわけではなく、元はぴえとろ氏製作の『トルテルマジック』という同人シューティングゲームにZUN氏が寄稿したBGMで、その後『蓬莱人形 ~ Dolls in Pseudo Paradise』にアレンジした同曲が収録されている。『トルテルマジック』は近藤るるるによる漫画『天からトルテ!』の二次創作で、この漫画の主人公トルテは魔法薬作りが得意な魔女(Witch)で64話では佐倉繭理より依頼を受けて惚れ薬(Love Potion)も製作している。

『蓬莱人形 ~ Dolls in Pseudo Paradise』においてもブックレットの内容が異なるコミックマーケット62頒布版とプレス版の両方に惚れ薬が登場している。本楽曲では歌詞に直接「惚れ薬」という単語は登場していないが、ブックレットイラストと採用された原曲から霧雨魔理沙が森近霖之助に惚れ薬を使ったという事が示唆されており、『Witch of Love Potion』の採用理由はタイトルの意味通りといったところか。

見た目は白黒のおかしな格好をした少女である霧雨魔理沙。彼女はその内面に何を潜ませているのだろうか。まず霧雨魔理沙の内面に潜む性格に焦点を当てて、彼女がどんな少女なのかを復習がてら暴いてみよう。また、旧作に登場する魔理沙(魔梨沙)は除くものとし、あくまでWindows版以降の魔理沙の設定を振り返る。


◇霧雨魔理沙はひねくれている

○奇妙な魔法使い 霧雨 魔理沙(きりさめ・まりさ)

能力:魔法を操る程度の能力
こちらも主人公です。この二人は東方シリーズの主人公です。
魔理沙は、性格がひねくれてますが、ほんとの所も性格悪いです。
人間のはずですが人間から遠いところに存在しています。本当に人間なのか疑わしいところですが、実は人間です。

―東方紅魔郷おまけ.txtより引用

まずはWin版一作目『東方紅魔郷』における霧雨魔理沙。性格は「ひねくれている」、「性格が悪い」と、はっきりとマイナスイメージの言葉が並べられている。紅魔郷作中の行動としては「館に押し入って本を盗む」、「博麗霊夢だと名乗り、嘘をつく」といった少なくとも真っ当とはいえないものである。

書籍文花帖では本を盗む様子が文々。新聞の記事になっており、時系列は紅霧異変が先月なので、東方紅魔郷から一か月以内となる。記事によると霧雨魔理沙は10件以上も盗みを繰り返しており、その手口は裏口から忍び込んだ後に堂々と館の中を歩き回って気に入った書籍類を盗んでいるらしい。この犯行について、霧雨魔理沙は次のように証言している。

空き巣とは酷いな。それに忍び込んでいるけど盗んでいる訳じゃない。
どうせあんたらの人生に比べれば私らの方が圧倒的に短いんだから、全部私の死後に回収すれば良いだろう?
それまでの間借りるだけだ。その方が物にとっても良いはずだぜ。

―『東方文花帖 ~ Bohemian Archive in Japanese Red』

妖怪は人間の死後に回収できる為これは盗みではなく死ぬまで借りているだけ、というひねくれた考えをしている。その後、十六夜咲夜の記事では咲夜の手によってミニ八卦炉が霧雨魔理沙の家から盗まれていたが、これを受けて「人の物を勝手に持っていくなんてふざけた奴だ」と憤慨している。霧雨魔理沙が自分の犯行を棚に上げているのか勝手に持っていっているつもりはないのか分からないが、どちらにしてもひねくれている。紅魔館の他にも、『The Grimoire of Marisa』の蓬莱山輝夜の項では、輝夜の持つ珍品に対して「見た事も聞いた事もない物ばかりで羨ましい」と零しており、仕舞ってある場所を気にしているそぶりが伺える。蓬莱人は人間よりもずっと長く生きる為、「死ぬまで借りる」理論は成立する。

ここでちょっと気になった、霧雨魔理沙は「人間より長く生きる者からしか物を盗まない」というポリシーを持っているのか、について。

東方香霖堂第二十話では、稗田の屋敷を知った魔理沙が「今度はそこに遊びに行こうか」と発言した際に森近霖之助は「遊び」を「盗み」の事だと捉えているが、本当に盗みに入ろうと思っていたかは不明である。『記憶する幻想郷』では稗田の屋敷から書籍類を盗んでいる描写はなく、『東方求聞史紀』には「今のところ被害にあっていない」とあるため、霖之助に「稗田家の主人と霧雨の親父さんは仲が良いよ」と釘を刺されたからかは定かではないが、今のところ稗田の屋敷では霧雨魔理沙は盗みを実行している描写はない。(しかし、鈴奈庵第七話の稗田の屋敷への手際の良い壁越えを見るに普段からやっているのではないか?)

また、鈴奈庵第二十八話では鈴奈庵に七不思議大百科の複製を頼むもコストの高さに断念して素直に借りている。この際にパチュリーの絵を背景に「図書館とか持っている奴が羨ましいな」と言葉を漏らしており、この言葉に見える羨望に似た感情が「紅魔館での10件以上に渡る盗み」の動機なのかもしれない。加えて『The Grimoire of Marisa』の蓬莱山輝夜の項でも「羨ましい」と言っている辺り、「羨望」という要素が大きいように思える。他にも、香霖堂第六話では霖之助が姿も中身も変化しない事を思って、「うらやましいぜ」と内心を吐露しており、人間より長く生きる者に対して「羨望」がある事は間違いないだろう。

しかし、東方鈴奈庵第一話ではタダでネクロノミコン写本を借りようとしたが、小鈴がすかさず釘を刺した為か未遂に終わっており、目を輝かせて「借りていくぜ(死ぬまでな)」と本を手にしていた事を考えると、隙があれば釘を刺されない限り人間か妖怪か見境なく盗むと思われるため、前述の「人間より長く生きるものからしか物を盗まない」というポリシーなどは存在しないのだろう。他にも、茨歌仙第三十話で霊夢に狐の玉を見せられた魔理沙は目を輝かせるという反応をしており、これに対して霊夢は神社の蔵の鍵を新調しようと考えていた辺り、人妖巫女関係なく盗みの常習犯である可能性が高い。

そうなると、書籍文花帖における霧雨魔理沙の発言はおそらく羨望交じりのひねくれた言い訳と見るのが妥当と言える。

○普通の魔法使い 霧雨 魔理沙(きりさめまりさ)

幻想郷に住む、普通な魔法使い。蒐集癖を持つ。
ひねくれて見えるが、内実は誰よりも真っ直ぐ。いつも黒い服を着ているが、それは魔法使いは黒だと思い込んでいるのと、汚れが目立たないと言う理由から来ている。
真っ直ぐである。

東方風神録オンラインマニュアルより引用

上記によると、ひねくれてはいるが「真っ直ぐ」とのこと。この記述は風神録だけでなく、風神録~神霊廟までの作品で共通している。確かに、霧雨魔理沙は書籍文花帖の時のようにひねくれた考えをするものの、彼女の手口の特徴でもある「堂々と盗む」その姿はある意味「真っ直ぐ」とも思える。


◇霧雨魔理沙は貪欲である

○普通の魔法使い 霧雨 魔理沙(きりさめまりさ)

普通の少女。寒いと(服を着込む為)若干能力が低下する。
(中略)
実は努力家であり、また蒐集家でもある。
霧雨邸には、どこからくすねて来たのか貴重なグリモワール(魔導書)や、
マジックアイテムが所狭しと並んでいる。が、使おうとはしない

東方妖々夢オンラインマニュアルより引用

霧雨魔理沙には「蒐集家」という設定が存在している。また、同ページでは自機として「アイテム取得有効範囲が大きい」「アイテム最高得点の位置が低い」という特殊能力を持っていることが紹介されており、正に蒐集家らしい性能をしている。また、キャラ設定.txtでは「年々、蒐集癖が酷くなっていく気がする」とある。この「蒐集癖」は、前述の「盗み」とも関連しており、「使おうとはしない」ということは使う為に盗んでいるわけではなく、物を集める事が目的とも思える。実際、香霖堂第七話では「集める事が目的なんだよ。使う事は考えてないぜ。」と発言しているが、ミニ八卦炉の修繕をかけて霖之助と口論にも似た交渉をしている状況であるため、本心ではない可能性は一応ある。

ふと気が付くと、茸を取り過ぎて妖精が不機嫌そうだった。
茸はもう持てそうにないが、もったいないから無理やり帽子の中に突っ込むことにした。
ヌルっとしてちょっと気持ち悪い。
・・・・・・ああ、私には物を捨てるという事が出来ないのだろうか。
自分の事ながら呆れてしまう。

―東方香霖堂第六話『霧雨の火炉 前編』より引用

上記の引用は霧雨魔理沙の内面が露出した貴重な場面であり、自分の蒐集癖を自覚しつつも呆れている様子が伺える。「もったいないから」という理由で、持てそうにない量の茸を回収しており、非常に貪欲。STGにてアイテムの回収性能が高いのも頷ける。

そうなのか?
私は欲しくても手に入らない物が一杯有るし、それを手に入れる為には何をしても良いと思っているんだが、手に入っても幸せにはなれないのか?

―東方求聞口授 第二部より引用

「近年、物質も情報も満たされてきた外の人間達がそれだけでは幸せになれない事に気付き始めた」という旨の八坂神奈子の発言に対して、さりげなく問題発言をした霧雨魔理沙。これは「欲しいものを手に入れる為には手段を選ばない」と言っているようなものである。また、彼女は目的の物を手に入れる過程で、山で遭難したり(茨歌仙第十話)、大怪我を負ったり(茨歌仙第十一話)しており、たとえ危険が伴っても手に入れようとするという面もある。この娘、どこまでも貪欲である。

「何を言うんだよ。香霖が言ったんだろう? 今夜の流星は凄いって、きっと百以上は落ちるって」
「確かに百くらいは落ちると思うが……まさか全部見るつもりか?」
「ああ勿論もちろんだ。願い事を百以上用意してきたからな」

―東方香霖堂第二十二話『妖怪の見た宇宙』より引用

上記、第一回流星祈願会は本編より四~五年前となり、この頃の魔理沙が勘当されていたかは不明だが、魔法は既に使い始めているようだ。この話によると、霖之助より百以上は流星が落ちると聞いた魔理沙は願掛けをするために百以上の願い事を用意してきたというのだ。霧雨魔理沙は人間の里にある大手道具屋『霧雨店』の一人娘という幻想郷の人間の中でもトップクラスの恵まれた生い立ちにも関わらず、百以上の願い事を用意できてしまうというのは驚嘆に値する。

いや、恵まれすぎた生い立ちだからこそ望むものも多いのだろうか?価値観が常人の物ではなく「衣食住、金、地位」などよりも「知識、強い力、魔法」などに執着しているから恵まれた生い立ちなどは関係ないのか?

まだ実家に居た頃にこんな事があった。
あいつが珍しく家に来ていて、鉄くずを抱えて何やら親と口論していた。
幼い私は必死に盗み聞きしていたが、「ひひいろかね」とか「稀少な金属」とか何とか聴き取るのが精一杯だった。
それからというもの、その事が気になって、鉄器から古びた鉄の棒、原形を止めていない鉄くずまで金属なら何でも集めた

―東方香霖堂第六話『霧雨の火炉 前編』より引用

これは描写されている中では現時点で一番古い霧雨魔理沙の記憶であり、彼女の蒐集癖のルーツとも言える出来事だ。鉄くずにも価値がある事を知ったから集める行動をし始めたのだろうか。

幼い頃の出来事は後の人格形成に大きく影響を与えると言われるが、霧雨魔理沙の場合は蒐集癖という呪いにかかってしまったように思えてしまう。


◇霧雨魔理沙は負けず嫌いである

○普通の魔法使い 霧雨 魔理沙(きりさめまりさ)

魔法使いさん。
魔法の森に住む人間。魔法を使う程度の能力を持つ。
散らかった部屋を掃除するため、整理整頓に役立つ魔法を研究しようと
家中のアイテムや本をひっくり返す毎日。言うまでも無く成果は上がらない。
彼女は努力家であり、また蒐集家でもある。
負けず嫌いであることがバレバレの負けず嫌いも嫌い、という困った負けず嫌いである。

東方永夜抄オンラインマニュアルより引用

霧雨魔理沙には「蒐集家」の他にも「努力家」で「負けず嫌い」という設定もある。しかも、「負けず嫌い」がバレバレな事も嫌っている、という困ったちゃんだ。要するに、負けず嫌いな自分を他人に見せたくないという事なのだろう。

魔法使いというとインドア(引きこもり)なイメージが強いが、彼女は自分から出かけることが多い。
魔理沙は研究に没頭している時は人が居ない方が良いのだが、そうじゃない時は賑やかなのが大好きだからである。
森は人間を引き寄せない為、都合がいいのだ。決して、研究途中のものを見せたくないから隠れている訳ではない(魔理沙談)

―東方永夜抄キャラ設定.txtより引用

上記引用によると、人が近寄らない魔法の森は彼女にとって都合が良いらしい。負けず嫌いがバレたくない霧雨魔理沙の事だから、「研究に集中できるから」という理由以外にも「努力している姿・過程を見せたくないから」という理由もあるのだろうか。わざわざ(魔理沙談)と付いている所が嘘っぽさを演出している。

そんな彼女が使う魔法は見た目が派手だが、それを使うまでは地味である。
まず、魔法の燃料は化け物茸であり、これは地道に生えているのを探して摘み取るしかない。
(中略)
成功しても失敗しても本に纏め、また茸狩りから再スタートである。
彼女にとっての魔法は、派手で見場も良く美しいものの、裏では地味な努力を重ね、人前では決してその努力を見せないようにするもの。

―東方求聞史紀 霧雨魔理沙の項より引用

阿求によれば霧雨魔理沙は「努力を見せないようにしている」ということらしい。恋符「マスタースパーク」、魔符「スターダストレヴァリエ」といった派手なスペルカードは「魔法の森で茸を採取し、調理・調合・実験を何度も繰り返す」という地道な努力の積み重ねがあって成り立っている。しかし、公式作品では茸を採取してる姿が描かれる事はあるものの、肝心の地道な努力の積み重ねが描かれた事はほとんどない。あるとすれば、『The Grimoire of Marisa』にて今まで見たスペルカードについての研究ノートをまとめている描写くらいなもので、無論『The Grimoire of Marisa』には一人称としては霧雨魔理沙しか登場せず、他のキャラクターに研究するその姿を見せてはいない。

「うん。物質とその相互作用は魔法を扱う者にとっては欠かせない知識の一つだからね。君が実は勉強家だと言う事は判っているよ」
「勉強ではないぜ。本を読み、魔法を磨く、それが日課だから知識を増やす事は勉強に値しない」
「へぇ、魔理沙ってこう見えても勤勉だったのねぇ。その成果が出ているのかしら?」

―東方香霖堂第十九話『龍の写真機』より引用

上記のセリフによると、霖之助の「魔理沙は勉強家だと判っている」発言に対して霧雨魔理沙は「勉強には値しない」と否定している。珍しく霖之助が魔理沙を褒めているが、魔理沙はそれを素直に受け止めることはせず、流石はひねくれ者といったところか。

ただの照れ隠しとも解釈できるかもしれないが、努力と負けず嫌いを隠したい魔理沙の事だから「勉強家」という言葉に引っ掛かりがあった、と捉える事ができよう。「勉強」という言葉は「努力」の意味合いが強く、実際に国語辞書で「勉強」と引けば「努力すること」という意味も載っている。この魔理沙の発言を意訳すれば「知識を増やす事は息を吸う事と同じで努力の内には入らない」とでも言いたいのだろう。

霧雨魔理沙が「負けず嫌い」なのであれば「負けず嫌い」を発揮する相手が居るはずである。例えば魔法使いの同業者や強大な力を持つ神や妖怪も度々その相手に含まれているが、原作の描写の中では博麗霊夢に対して多く発揮されているようだ。

例えば、茨歌仙第十一話では何かめぼしい物を茨木華扇の屋敷に探しに行ったが道に迷って虎(彭祖)に襲われて大けがを負った際に魔理沙は霊夢に対して「私が怪我している間に何か異変が起こったとしても抜け駆けするなよ?」と釘を刺す、鈴奈庵第十三話にて霊夢より先に沓頬の正体を見破り退治をした事を嬉しそうにしている、といったように妖怪退治や異変解決で霊夢に張り合おうとしている節がある。求聞史紀の阿求の記述によれば「博麗の巫女に妖怪退治をお願いしようとすると何故か勝手に彼女が引き受けてしまう」という事もあるらしく、魔理沙の行動は巫女の仕事を横取りしているように見える。

ほぼすべての作品で霧雨魔理沙は博麗霊夢と一緒に自機に抜擢されてはいるが、そもそも異変解決は代々博麗の巫女の生業であって普通の魔法使いである霧雨魔理沙の仕事ではないはずだが、求聞史紀によると「最近は異変が起こると真似をして異変解決しようとする者も多い」らしく、霧雨魔法店の仕事の中に異変解決が含まれているらしい。つまり、霧雨魔理沙は博麗の巫女の生業を模倣しており、その動機は上記で示してきた魔理沙の性格と行動を思えば「霊夢への対抗意識」がやはり大きいのではないか。

ほほう、夢の住人を捕まえろ、か。霊夢か紫の差し金だな?
彼奴はいつも私より主人公っぽくて目障りなんだよ。

―東方憑依華 霧雨魔理沙(夢人格)のセリフより引用

上記は夢人格の発言ではあるが、普段の魔理沙が見せることはない貴重な発言だ。夢の支配者ドレミーによれば、感受性が豊かな夢人格は「普段思っている事が何倍にも増幅して表現される事がある」という。つまり、魔理沙は普段から「目障り」と少しは思っている事が分かり、負けず嫌いの魔理沙は嫉妬にも似た霊夢への対抗意識を持っている事は確かなのだろう。また、霧雨魔理沙は努力家で負けず嫌いである事を隠したがるので霊夢への対抗意識も隠しているつもりなのかもしれない。


◇霧雨魔理沙と森近霖之助の関係は?

やっと聞けた言葉
貴方わたししか見えない」なら
もう他には何も 要らないはず

―『Kirisame Eversion』冒頭の歌詞より引用

さて、『Kirisame Eversion』では霧雨魔理沙が森近霖之助に対して惚れ薬を使っている描写があるが、魔理沙が上記のような事を言ったり、霖之助に惚れ薬を使ったりするほどの恋慕の情を抱いていたかは、東方香霖堂をはじめとする公式書籍を読む限りでは明確な描写が存在しない。二次創作では「魔理霖」と呼ばれるカップリングがそこそこメジャーであり、第13回東方Project人気投票ベストパートナー部門で420組中36位と健闘しているが、二次創作で見られるような魔理沙が霖之助にアプローチをかける描写は原作ではされていないわけだ。

では、霧雨魔理沙と森近霖之助は具体的にどういう関係だったか、その描写を振り返ろう。

目の前の黒い少女の名前は霧雨魔理沙。
ちょっと言葉使いが独特な魔法使いである。霊夢とは仲が良い。
よく店に来るが、用が有るのか無いのか判らない。

―東方香霖堂第一話『幻想郷の巫女と十五冊の魅力 前編』より引用

なぜ魔理沙が香霖堂によく来るのか、子供の頃から彼女をよく知る霖之助にすらそれは判らないらしい。

用もないのに香霖堂を訪れる霧雨魔理沙。その目的は何なのか。「霖之助に恋しているから」でも「博麗霊夢を監視する為」でもない、その理由と思わしき魔理沙の独白が香霖堂第六話で語られている。

この森では晴れだろうが雨だろうが余り変わらない。
それどころか昼だろうが夜だろうが、私はこの境界の無さが居心地が良くて大好きなのだ。
(中略)
私が物心ついた時には、あいつは既に今の場所に店を開いていた。
あまり昔の事を考えたくはないが、あの、物が多く心地良い暗さの店内は思い出せる。
そう、あそこも昼も夜も無く人も妖怪も無い、そういう場所だ。

―東方香霖堂第六話『霧雨の火炉 前編』より引用

どうやら香霖堂は魔理沙にとって「居心地が良い」らしい。森のように薄暗く、多くの物に囲まれている空間に居心地の良さを感じており、薄暗い魔法の森に住居を構えて物に囲まれた蒐集家生活をしている霧雨魔理沙を思えば、実に ”らしい” 理由である。

しかし、そんなお気に入りの香霖堂に関して霧雨魔理沙が気に喰わない事があるらしい。

どうも一つだけ気に喰わない事が有る。
おそらく私の実家に対してだと思うが、あいつは私に遠慮するのだ。
それもその筈、あいつは私が生まれる前は霧雨家で修行していたのである。
(中略)
あいつは昔から私に遠慮している。実家に戻る事はもう無いと言っているのに。

―東方香霖堂第六話『霧雨の火炉 前編』より引用

魔理沙は霖之助に対して「私に遠慮している」と思っているようだ。ミニ八卦炉を稀少なヒヒイロカネを用いた修繕依頼に対して霖之助が提示した条件は、その依頼内容に見合わない「鉄くず」を差し出す事であり、魔理沙はその不釣り合いな条件を指摘する。しかし、霖之助は「君には頭が上がらない理由も有る」と発言し、魔理沙はこれに対して「遠慮なんか、しなくてもいいんだがな」と言っている。

魔理沙からしてみれば、既に実家とは縁が切れているのに実家の力が影響して依頼内容に見合わない安い条件を差し出されており、負けず嫌いの彼女の事だから、まるで実家の力に頼っているようで悔しいのかもしれない。

霖之助がこの条件を提示した理由はセリフにある「後が怖い」というのが本心なのだろう。「霧雨の剣」の一件と同様に「後で魔理沙から何を要求されるか分からない」という意味での。そもそも「頭が上がらない」のは実家とは関係なく「魔理沙の集めたガラクタを不当に安い条件で手に入れているから」である。そりゃ、バレたら何を要求されるか分かったものではない。

と、そんな具合でこの二人からは恋愛感情はほとんど見えないのである。

ここでひとつ。

『Kirisame Eversion』の霧雨魔理沙には我々が考えるような恋愛感情など微塵もないのではないか

という仮説が頭をよぎる。

前述の通り、霧雨魔理沙は「ひねくれもの」で「貪欲」で「負けず嫌い」である。ただ所持欲を満たすために、ただ貪欲なまでに、負けたくないが為に、手段を選ばず、堂々と。ただ「森近霖之助」という半妖を欲しがってしまったばっかりに。

恋と符名を付けた彼女は本当にその意味を理解しているのか?

負けたくないアイツが霖之助を魔理沙から奪うような天然ムーブを見せ付けて、魔理沙の悪癖に火をつけてしまったのだろうか?

そんな気がしてならなくなる。

最後に、魔理沙が惚れ薬に手を染めるかどうか。

まあ手段を選ばない彼女の事だから躊躇なく使うのだろう。香霖堂第二十一話で霖之助に幻覚作用があると知って妖念坊と名付けた茸を食べさせたり、三月精SBND第四話にて因幡てゐにチョウセンアサガオを食べさせたり、茨歌仙第三十四話で毒抜きしてはいるものの霊夢に対して水仙の漬け物や毒ニンジンを食べさせようとしたりする霧雨魔理沙の事である。

毒だろうが、薬だろうが、それが親しい相手だろうが、彼女は躊躇なく使うのだろう。

努力家の彼女の事だから目的の物を手に入れる為に惚れ薬が必要ならば無理をしてでも作るのだろう。

強く、強く、そして内実は誰よりも真っ直ぐ。そんな彼女ならきっと、する。


◇合わせて聴きたい曲

▼いつか沈み行く暗闇の中に

本楽曲と同じく『密』収録。霊夢目線の綺麗なレイマリ。だが、『Kirisame Eversion』と同じアルバムに収録されている事を思うと実に厭らしい!まるで小動物のような眠り顔を見せる霧雨魔理沙に何か裏があるように思えてしまうのだ!

▼ホーカス・ポーカス

『彁』収録。『Kirisame Eversion』が全てを奪いつくす貪欲魔理沙ならば、こちらは持てる全てを火にくべるストイック霧雨魔理沙。しかし、努力家で手段を選ばないという点ではどちらにも共通していると言えようか。

▼スターシーカー

『憩』収録。霧雨魔理沙にもこんな時代もあったんだよな・・・。と思いきや、実家にいた時点で鉄くず集めにお熱だったり、第一回流星祈願会では100個も願い事を用意してきたりなど幼い頃にも関わらずその片鱗が見えていて、ちょっとアレ・・・。

▼コレクターズ・ハイ

『蒐』収録。アルバムのテーマからおそらく蒐集癖のある彼女の曲と思われるが、まだ未頒布なので詳細は不明。霧雨フリークにとっては最も期待の新曲なのは間違いなし。

凋叶棕例大祭17新譜『蒐』の予約はこちら
https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=640520


◇ブックレット

『密』の歌詞カードは表と裏で「秘密が守られた側」と「秘密が暴かれた側」に分かれているという特徴があり、”Eversion” という単語にとてもマッチしている。

表は昼、霧雨魔理沙と森近霖之助が寄り添いながら人間の里を歩く仲睦まじい姿。裏は夜、森近霖之助の背に隠れ、惚れ薬と思わしき薬瓶を右手に妖しくこちらに「ナイショ」のポーズをとる霧雨魔理沙。

ちなみに『Kirisame Eversion』のブックレットだけ表と裏で上下反転している。本楽曲を聴く時は歌詞カードを都度反転させて聴くと良い。

背景に登場する人物は小鈴と阿求だけでなく、凋叶棕のブックレットに過去描かれたモブ(テンマ、アヤメなど)が登場している。モブについて、詳しくははなだひょうさんのツイート参照。なぜか裏側にだけ博麗霊夢がいる。表側で寄り添う二人の真後ろに霊夢が位置しているようにも思えるが、何か意図はあるのだろうか。霧雨魔理沙が博麗霊夢の事を意識しているのを示唆している・・・?

ブックレットイラストは『綜纏Vol.4 四百四描』に収録。


◇雑記

とは、言え。

本記事では霧雨魔理沙が持つ性の悪いところを恣意的にピックアップしているだけであり、事実と異なる場合がある(引用部分はほぼ全部事実では?)のである。要は、この記事は偏向報道ならぬ偏向記事なわけだ。霧雨魔理沙本人に見られたら、そりゃもう怒られるだろう。

一応、霧雨魔理沙というキャラクターは、求聞史紀にて阿求から「垢抜けていて一緒にいると面白い」と評価されていたり、鈴奈庵で霊夢と協力して里の騒動を解決しようと努めていたり、妖精たちの遊びに付き合ったり、と何も悪い所ばかりではない。むしろ、表向きの霧雨魔理沙は明るくて話しやすそうで良いやつに見えてしまう。

でも、そんな彼女の裏側に、何かがある。その裏側にある何かをなまじ隠しきれていないから、その何かがどうしても気になってしまう。

東方萃夢想の萃香ストーリーにて「あんたは宴会でもそうでなくても賑やかだったね。一人の時はそんなでも無いのに。」と指摘されていたが、「素の霧雨魔理沙が昼でも薄暗い森の中にある家でどんな風に生活しているのだろうか」、と。

この記事を書く過程で私はそんな素の彼女に魅力を感じて、もっと知ってみたいと思ってしまった。

ああ、魔に魅入られるとはこういうことなのか。と不思議にも納得してしまう。

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