Featured in: 喩
track: 10
arrangement: RD-Sounds
lyrics: RD-Sounds
vocals: めらみぽっぷ
original title1: 幽霊楽団 ~ Phantom Ensemble
length: 04:57
◇概要
『喩』トラック10。題名の通り、プリズムリバー楽団に関連するアレンジ楽曲である。プリズムリバー楽団のメンバーは長女ルナサ、次女メルラン、三女リリカの三姉妹で構成されるが、『プリズムリバー練習曲第一番 “はじめての合奏”』では亡き四女レイラを含めたプリズムリバー四姉妹が題材となっている。
Q6.レイラ・プリズムリバーはもはや存在していない。
はい/いいえ
アルバム『喩』発表時に上記のようなクイズページが公開され、これらのクイズに対して「いいえ」をクリックすることによって次のクイズへ進め、最終的には『喩』の特設サイトへと辿り着き、「はい」は押せない仕様となっている。つまり、『喩』の世界に辿り着く為にはクイズの内容を否定する必要がある。
Q6の内容は、今は亡きレイラ・プリズムリバーの存在を否定しており、選択肢「いいえ」によりレイラの存在の否定を否定する為、「レイラは存在している」ということになる。公式媒体でレイラの容姿が描かれたことは一切なく、本楽曲のブックレットイラストでは、はなだひょうさんによるオリジナルデザインのレイラが描かれており、歌っているような様子からボーカルを担当している事が分かる。故に本楽曲の一人称はレイラ・プリズムリバーという事になる。
アルバム『喩』のテーマは「もしもの世界」。レイラの容姿やレイラがボーカルを担当している事も「もしもの世界」の上で成り立つ創作設定であり、公式には存在しない設定である。
本記事では、プリズムリバー四姉妹の設定再確認し、クイズ文「もはや存在していない」をどう捉えるかの解釈を再考していこう。
◇レイラ・プリズムリバーについて
まずはプリズムリバー三姉妹が初登場した東方妖々夢のキャラ設定.txtからレイラ・プリズムリバーの設定を振り返ってみよう。
3人の生まれは遥か昔に遡る。その昔、人間の貴族、プリズムリバー伯爵という人がいた。伯爵には四人の娘がおり、たいそう可愛がられていた。
だが、とある不幸な事故により、四人は家族を失う。身寄りの無い娘達は、それぞれ別々に引き取られていったのだが、四女のレイラだけは思い出の屋敷から別れる事が出来なかった。レイラは最大限の力で、姉達の姿をした騒霊(ポルターガイスト)を生み出し、この屋敷と騒霊と共に消えた。
―『東方妖々夢』キャラ設定.txtより引用
プリズムリバー三姉妹はプリズムリバー伯爵の四女レイラにより生み出された騒霊(ポルターガイスト)であり、騒霊を生みだしたレイラは屋敷と騒霊と共に “消えた” とある。この文章における “消えた” はおそらく「幻想入り」を意味しているのだろうか。その後に続く文章では、プリズムリバーの屋敷が幻想郷に残っている事が示されており、少なくとも騒霊と屋敷は幻想入りしていた事になる。
レイラ・プリズムリバーに関する設定がはっきりと書かれた公式作品は東方妖々夢のみであり、東方花映塚にはリリカストーリーにてその存在が仄めかされる程度であった。しかし、2004年2月末~3月初旬頃、ゲームサロン板 東方シリーズ総合スレッド(通称:本スレ)にて本スレ住人(◆I4s4JELmpY)が代表してZUN氏への質問を募り、質問メールを送ってZUN氏から直々に回答メールを貰った、という出来事があった。内容が衝撃的かつ出自が匿名掲示板な事もあり当時は物議を醸した回答内容であったが、その回答メールの中にレイラ・プリズムリバーに関する記述が存在していた。
この時はまだ、4人ともだたの世間知らずのお嬢様でした。勿論たしなみ程度にヴァイオリンやピアノなどやっていたかも知れませんが、演奏隊はしていません。
(勿論、ちんどん屋なんかもっての他です)
服装も今のようなおかしな格好はしていません。
(そもそも、後から屋敷ごと幻想郷行きになってしまっただけですし。)―Coolierうpろだ ZUN氏の回答メール(game_1522.lzh)より引用
上記の回答メールによれば、「レイラは屋敷と騒霊と共に幻想入りした」という事らしい。また、プリズムリバー伯爵の子供であった頃の4人は演奏隊はしておらず、格好も現在のプリズムリバー三姉妹のような服装ではなかった、という。本楽曲のブックレットイラストにルナサ、メルラン、リリカは現在のプリズムリバー三姉妹と同様の格好をしている。
とある事故(これは東の国でとある「アイテム」を伯爵が手に入れてしまったことに起因します。お察しの通り、それは幻想郷のマジックアイテムであり、レイラの能力の起源に関係する事になります。)が起こり、プリズムリバー家は崩壊します。
では、ゲームに出てくるプリズムリバー三姉妹は何者なのか。それはレイラとレイラの能
力(とアイテム)が生み出した騒霊、つまりポルターガイスト(ここでは霊能力のようなもの)です。―Coolierうpろだ ZUN氏の回答メール(game_1522.lzh)より引用
この回答メールにはレイラの能力についての記述もある。プリズムリバー家の崩壊、レイラが騒霊を生み出した事の背景には幻想郷のマジックアイテムが関係しており、具体的な能力の内容は記されてはいないが、レイラの持つ能力にも関係しているという。本楽曲の冒頭の「私の魔法」という歌詞はこの記述が元となっているのだろう。
この騒霊、最初の内はただの姉達の幻影、幻聴に過ぎない物でした。
そのうち、レイラと会話できるようになり、いつのまにか一緒に生活する様になっていきました。
幻想郷の暮らしはレイラだけではきつかったのですが、姉達の幻影に助けられ何とか生活できたのです。ただ、三人は何時までも成長しませんが、当然レイラだけは普通に天寿を全うすることになります。―Coolierうpろだ ZUN氏の回答メール(game_1522.lzh)より引用
レイラが生み出した騒霊は始めはただの幻聴だったが、次第に会話できるようになり、レイラは騒霊と協力して幻想郷で生活を営んで普通に天寿を全うした、とある。「天寿を全うする」という表現は「天から授かった寿命を全て使い果たした」という事である為、おそらく種族:魔法使いなどの人外種族とはならず、レイラは人間のまま亡くなったと考えるのが妥当だろう。
しかし不思議なことに、レイラが亡くなっても何故か三人は何時までも消える事は無かったのです。三人は、騒霊という名の通り騒々しくしてやろうと(その辺が幻想郷の彼女達ならではの、余裕のある考え方)楽器の演奏を取得し、いつのまにか自然とちんどん屋をするようになった訳です。
―Coolierうpろだ ZUN氏の回答メール(game_1522.lzh)より引用
上記の記述から、楽器の演奏を習得したのはレイラ・プリズムリバーが亡くなった後である事が分かる。つまり、ルナサ、メルラン、リリカは最初から楽器を演奏できた訳ではなかった事になる。
以上がレイラ・プリズムリバーを取り巻く設定となる。これらを時系列でまとめるとこうなる。
1.四姉妹が伯爵の元、屋敷で暮らしていた
2.伯爵が幻想郷のマジックアイテムを手に入れる
3.伯爵が亡くなり、四姉妹が離れ離れになる
4.レイラが騒霊の三姉妹を生みだす
5.レイラ、騒霊、屋敷が幻想入りする
6.レイラが騒霊との会話が可能となり、騒霊と共に幻想郷で暮らす
7.レイラが天寿を全うする
8.残された騒霊三姉妹が演奏を会得し、プリズムリバー楽団を結成
さて、『プリズムリバー練習曲第一番 “はじめての合奏”』の話に戻る。ここで重要になのは、どこからどこまでが「もしもの世界」なのか、という部分だ。次の項では、以上の設定を絡めた解釈を考えてみよう。
◇何が「もしもの世界」と成ったのか
本楽曲が収録される『喩』は特殊な性質を持つアルバムで、「もしもの世界」というテーマ故に意図的に東方Projectの公式設定の一部が否定・改竄されている。つまり、『喩』収録の楽曲を解釈する上で、どの設定のどの部分が「もしもの世界」に成ったのかが重要になる。それを考える材料として、本記事の概要で示したクイズがまず挙げられる。
Q6.レイラ・プリズムリバーはもはや存在していない。
はい/いいえ
本楽曲のクイズではレイラ・プリズムリバーの存在を否定していたが、このクイズ文の「存在していない」は次に示す2通りの解釈ができるのではないだろうか。
A.レイラが幻想入りした事から現実世界に「存在していない」とする解釈
B.レイラが天寿を全うした事からこの世に「存在していない」とする解釈
このクイズ文の「存在していない」はどちらを示しているのかを考えてみる。
Aの場合は、幻想入りした事を否定している為、プリズムリバー四姉妹は幻想郷ではなく現実世界に存在する事となる。プリズムリバー四姉妹は現実で再会を果たし ”はじめての合奏” を奏でた、もしくはレイラが騒霊を生みだしてそのまま現実世界で過ごした、という解釈になるか。この前者と後者を以下のようにA-1、A-2とする。
A-1.現実世界前提の元、プリズムリバー四姉妹を人間とする解釈
A-2.現実世界前提の元、プリズムリバー三姉妹を騒霊とする解釈
ブックレットイラストでは、ルナサ、メルラン、リリカが手を使って演奏している事から彼女らは騒霊ではない可能性もある為、A-1の説もあり得るだろうか。しかし、この四姉妹が人間のまま再会したとするならば、彼女らの格好が原作におけるプリズムリバー三姉妹とそっくりである部分はやや気になる点で、そもそも人間時代の四姉妹はこんな格好ではなかったはずであり、「たとえ在り方が違っても」という種族が違う事を示唆する歌詞も気になってくる。
長女から三女の種族を騒霊とするA-2の説ではどうだろうか。この説の場合、プリズムリバーが騒霊として楽器演奏を習得したのは幻想入りして、レイラが亡くなった後からである点がやや気になるか。四姉妹の姿が若い姿であることから、レイラが生きた人間かどうかが鍵になるだろう。もしも、レイラが現実世界で天寿を全うしていたとすれば、人外となり、若い姿を取るとも考えられるだろう。その場合、騒霊らが演奏を習得していても特におかしくはない。そもそも本楽曲はあくまで練習曲である為、演奏を習得したかどうかは気にする要素ではないかもしれないが、最初の内は騒霊と会話すらできなかったはずである為、やはりレイラを生きた人間とする解釈は矛盾しているように思える。
解釈Aは現実世界でプリズムリバー四姉妹が楽団を結成した場合だが、現実世界と仮定する事にがやや気掛かりな点がある。アルバム『喩』には『カ-210号の嘆き』や『A transient faith』といった「東方キャラが現実世界で過ごしていたとしたら」という「もしもの世界」を表現されている楽曲も存在している。そういった楽曲の場合は『喩』のジャケットに楽曲に対応するキャラクター(例えば、早苗親子や河城にとり)が描かれているが、プリズムリバー四姉妹は描かれていない為、クイズ文の「存在していない」を「現実世界から幻想入りした」と解釈したAの現実世界説は微妙かもしれない。
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では、Bの解釈。クイズ文の「存在していない」を「天寿を全うしてこの世から去った」と考えた場合はどうか。レイラは生きており天寿を全うしていない、もしくはレイラは天寿を全うしたがこの世から去らずに幽霊や亡霊といった人外種族となった、という解釈になるだろう。
Bの幻想入り説でレイラが生きているとする解釈は時期的な矛盾点が生じてしまう。ブックレットイラストのレイラの姿は若いままであり、そもそも最初の内は騒霊と会話もできなかったはずで、騒霊が演奏を習得する時期もレイラが天寿を全うした後である。
とすれば、レイラは幻想郷で天寿を全うしたが、幽霊や亡霊といった人外種族となったのではないだろうか。この場合、矛盾点は思いつかない。強いて言えば、ブックレットイラストの三姉妹が手を使って演奏している事くらいなものである。はなだひょうさんの解釈では、『綜纏Vol.4 四百四描』等に掲載されたイラストによれば、レイラの種族は天寿を全うした亡霊という事になっている。
以上に示した解釈をまとめる。着眼点としては「舞台が現実世界か否か」「ルナサらが騒霊か否か」「レイラの生死」という部分があるだろうか。この着眼点でまとめると次の表になった。

前述した通りの理由により、この表で示す④が妥当な解釈になるだろうか。④は「現実世界でレイラは騒霊を生みだした後に幻想入りし、騒霊と暮らしながらも天寿を全したが、死後レイラは幽霊や亡霊といった人外種族となり、騒霊姉妹と楽団を結成した」という解釈。
他にも着眼点があるのかもしれないが、今回はここまでとする。
◇ブックレット
歌うレイラ・プリズムリバーとそれぞれ担当の楽器を演奏するルナサ、メルラン、リリカの姿。背景は屋内の様で、ソファーなどの洋風の家具があることからレイラ達の住まう屋敷なのだろう。机の上には紙とペンがあり、四人仲良く作曲などをしていたのかもしれない。
ルナサ、メルラン、リリカは原作の容姿に近く、ルナサには月、メルランには太陽、リリカには星のモチーフが帽子に装飾されている。レイラの姿ははなだひょうさんオリジナルデザインでピンクの髪に青の洋服。三姉妹の各モチーフに対して、レイラには彗星のモチーフが帽子に装飾されている。
ルナサの足元より放たれた五線譜が、下の『A transient faith』の歌詞カードに描かれた電線と繋がっている点に面白みがある。
イラストは『綜纏Vol.4 四百四描』に収録。
ラフスケッチページ記述のはなだひょうさんの解釈通り、本楽曲におけるレイラが亡霊だったとすればの話。この場合、求聞史紀の亡霊の項の記述も併せて考えると、レイラは「死んだ事に気付いていなかった」、もしくは「死を認めたくない念が強過ぎた」のどちらかに当て嵌まる。記事中で紹介したZUN氏の回答メールにはレイラは「さびしがり屋の幼い少女」とある為、騒霊の姉妹たちと別れる事がさびしくて死を認めたくなかったことが起因して亡霊と成れたのかもしれない。
◇雑記
5年前の夏コミ『喩』頒布当時より、最初にこの楽曲を聴いていてからずっと思っている事がある。この楽曲を聴いていると、レイラ・プリズムリバーが各々癖の強い三人の奏でる楽器の音を指揮しているかのような、そんな幻が見えるのだ。
私達三人はヴァイオリンとトランペットとキーボードなんだけどー、奏でる音はそれぞれ別の役割を持っているのよ。
姉さんはしっとりと聴かせる曲で、聴く者の気持ちを落ち着かせる鬱の音。
私は感情の変化が激しい曲で、聴く者の気持ちを高揚させる躁の音。
リリカはその二つを纏めて耳障りの良い曲にする幻想の音。
どれか一つでも欠くと音楽は暴走して魔法の様な物になるのー。―『東方文花帖 ~ Bohemian Archive in Japanese Red』メルランのセリフより引用
メルランによれば三姉妹の奏でる音はそれぞれ違った役割を持っているという。東方花映塚キャラ設定.txtにもある通り、ルナサが鬱の音、メルランが躁の音、リリカが躁鬱を補完する幻想の音を演奏する役割を持ち、三人が揃って演奏する事で音のバランスを保っている状態のようだ。
また、『東方文果真報 Alternative Facts in Eastern Utopia.』では音楽性の違いにより一度は解散していたプリズムリバー楽団。解散の原因について、堀川雷鼓は「みんな自己主張が強すぎて、纏まりがなくなっていただけ」と話している。
そんな各々一癖ある三姉妹が奏でる音楽は、求聞史紀の記述によれば「激しくノリの良い曲」とあり、原曲『幽霊楽団 〜 Phantom Ensemble』も『今宵は飄逸なエゴイスト(Live ver) ~ Egoistic Flowers.』もそのイメージに合っているのだが、本楽曲における彼女らの演奏とは少しイメージが違う気がする。もちろん練習曲だから、というのもあるのかもしれないが、なんとなくこう思うのだ。
もしもレイラがプリズムリバー楽団の一員だったのならば、原作におけるプリズムリバー楽団とは違った音楽性の演奏もできるのではないか・・・?
【calmato con espressione】
【agitato con forza】
そしてときには
【con amore】
私は幻視する。「いち、にっ、さんっ、しっ」と、癖の強い三人の姉達の演奏を指揮しながら歌う彼女の姿を。