竹藪の中

イントロはきっと、こういうアングル


Featured in: 密
track: 9
arrangement: RD-Sounds
lyrics: RD-Sounds
vocals: Φ串Φ
original title:プレインエイジア
length: 02:45/03:28/01:53


◇概要

『密』トラック9『竹藪の中』。はなだひょうさん原案。

竹藪の中で起こったとある事件。聞けば、獣に襲われた一人の童が不幸にも命を落したという。本楽曲はこの事件を知る『花屋』、『白兎』、『  』が語った証言を元に構成された3曲セットの物語である。

しかし、彼女らの供述にはそれぞれ食い違う部分があった。

『竹藪の中』というタイトルおよび各楽曲の副題は、芥川龍之介の著作『藪の中』からのオマージュと思われ、それぞれ内容の違った複数人の証言からなる物語も『藪の中』を思わせる構成となっている。芥川龍之介の『藪の中』では、事件現場に居合わせた当事者3人の証言が食い違っていた事で読者の疑心暗鬼を誘う形で、結局のところ真相は藪の中のままとなっていた。それに対して、本楽曲『竹藪の中』のラストにおいては事件の真相とその一部始終が語られているようでもあり、上白沢慧音の能力によってその真相は秘されたと見受けられる。

この記事では、<<  人の慟哭>>にて語られた内容が真相だと仮定した上で、「なぜ証言が食い違っているか」、「なぜこのような証言をしたのか」に焦点を当て、キャラクターの性格なども踏まえて推理していく。


◇上白沢慧音の人物像

幻想郷の歴史は、彼女によって創られているのだ。
歴史というのは、ただ物事が起きただけでは歴史にはならない。
誰かの手によって歴史にして貰わないと歴史にはならない。
起こっていない事を捏造して歴史にしたり、逆に実際に起こった事件でも歴史から抹消する事も出来る。
事実を一視点から見た物が歴史なのだ。

―東方求聞史紀『上白沢慧音』の項より引用

この項では、「上白沢慧音」の人物像について考察する。

上記は求聞史紀の記述になる。上白沢慧音は人間時には「歴史を食べる程度の能力」、動物化時に「歴史を作る程度の能力」を持ち、これらの能力を行使すれば起こった事件の内容を捏造・抹消ができてしまうというのだ。

<<  人の慟哭>>のブックレットでは動物化時の上白沢慧音が描かれているため、動物化時の「歴史を作る程度の能力」を行使できる状況にあったと考えられる。歌詞カードの描写と、複数人の証言がそれぞれで違っている事も合わせて考えると、『竹藪の中』で起こった事件の真相は上白沢慧音によって捏造され、別の歴史が創られた可能性が極めて高い。

事故であったとは言え、友人・藤原妹紅が童の命を奪ってしまった事実を上白沢慧音が捏造する動機は何なのか。率直に考えるならば、最近になって永遠亭に行く里の人間の護衛などを始めたことで普通の人間たちと接点ができつつある友人を、また人里離れた山奥でひっそり暮らすような境遇に戻したくはなかったのだろう。事故現場に目撃者(もう一人の童)が居たために友人の罪が広まる事を恐れて捏造したとも考えられるかもしれないが、どちらかといえば「罪の意識に追い込まれた友人に悲しい運命を歩ませないように」という側面が強いように私は思う。

私がそう思う理由は上白沢慧音の性格にある。

本人は妖怪だが、人間が大好きで常に人間側に立っている。その能力も、人間の為になる事にしか使わない。

ー東方永夜抄 キャラ設定.txtより引用

東方永夜抄では異変から人里を守るために自らの能力を行使していたり、普段は寺子屋を開き子供に歴史を教えていたり、上白沢慧音は一貫して人間の味方であるような描写がされている。故に、そんな彼女が「目撃者が居たから」という理由のみで事件の真相を捏造するとは考えにくく、彼女がただ単に罪を隠す為に歴史を捏造するような人物であるならば「童が死んだ事実」そのものを無かった事にしていたはずだ。人間が死んだ事実を隠すことは死んだ人間の生そのものを否定する事になるわけであり、「童が死んだ事実」は隠さなかったのは人間が大好きな彼女なりの弔いとも思えてくる。

しかし、死んだ童が嫌われ者であったかの情報は<<  人の慟哭>>の歌詞には含まれておらず、人間が大好きな彼女が「死んだ童は嫌われ者だった」という歴史を捏造したと解釈すると、やや疑問が残る。死んだ童にも遺族や親しい者が居るならばこの捏造は配慮に欠けていると思え、その童が孤児だったとしても事故で死んでしまった童はあの世ではきっと浮かばれないだろう。この捏造だけは彼女らしくない。

これをどう考えるかについては次の項目で触れようと思う。


◇《花屋の物語》と捏造の意図

・そういえば、阿求ちゃんは寺子屋に来ないの? (花屋の娘)
私が授業をした方がきっと面白くなるけどね。 でも、楽しいだけじゃ授業は意味がない。

ー東方求聞史紀『上白沢慧音』の項より引用

『竹藪の中』にて最初に語られたのは、阿礼乙女・稗田阿求に問われた花屋による物語。この『花屋』という人物はおそらくは求聞史紀に登場した阿求の友人『花屋の娘』か、またはその家族なのだろうか。

彼女が語った物語はこうだ。

不幸にも赤銅の獣に襲われてしまい、一人の童が亡くなった。幸いにもその場にもう一人居た童は助かることができたが、何の因果か、亡くなったのは嫌われた童の方だった。

真相と一致した点は①「赤銅の獣に襲われた事」、②「童が死んだ事」、③「童が二人居た事」。

対して、真相との相違点は④「藤原妹紅の介在」、⑤「童の死因」、⑥「死んだ童が嫌われていた事」。

まず、④「藤原妹紅の介在」および⑤「童の死因」については前項の通り、上白沢慧音が友人・藤原妹紅を苦しめないようにした結果、「事故の歴史から藤原妹紅の介在を抹消して赤銅の獣に襲われて死亡した」と捏造したと思われる。妖怪側と思われる赤銅の獣に死因を擦り付ける形になっているのも、常に人間側に立つ上白沢慧音らしいやり口にも思える。

本題である⑥「死んだ童が嫌われていた事」について、解釈を以下に列挙する。

A.死んだ童は多くの人々にとても愛されていたため、その童の死が広まれば多くの人々が悲しむことになる。死んだ童とその遺族には悪いが、せめて悲しむ人々を減らすために死んだ童が嫌われ者であるよう歴史を捏造した。

B.慧音が能力を使用せずとも、元から死んだ童は嫌われ者だった。

Aの解釈を要するに、上白沢慧音が「死んだ童の人物評価」と「多くの人々の悲しみ」を天秤にかけた結果「多くの人々の悲しみ」を選び死んだ童を嫌われ者に捏造した、という内容だ。おそらくは慧音自身もこの選択に納得していないし、死んだ童に遺族や親しい者が居たとすれば尚更だ。平たく言えば、慧音は人々の悲しみの総量・数から判断したのではないか。

Bの解釈は、<<  人の慟哭>>においては死んだ童の人物像について明確に評価されていないため、「里の外れの悪ふざけ」という歌詞から推測した「悪ふざけをするような童だから嫌われ者であってもおかしくはない」という推理に基づいている。この場合、慧音は死んだ童の人物評価を捏造する必要性はなく、死んだ童を良い子にしたとしても人々の悲しみが増えるだけである。

私個人としてはAの解釈がアリだと思っている。次の項で示す<<白兎の証言>>の事もあるのだが、「友人と多くの人を悲しみから守る事を引き換えに、死んだ童を嫌われ者だと捏造した事の罪を慧音は背負った」とも解釈できるため、人間が大好きな慧音らしい選択に思えるからだ。


◇《白兎の証言》の考証

トラック9は、『因幡てゐ』と思われる白兎に対して、藤原妹紅が事の真相を問うた場面である。藤原妹紅は真相を知らない様子であり、やはり上白沢慧音の能力によって藤原妹紅の「童を殺めた」歴史は隠蔽されてしまっているようだ。この項からは白兎を因幡てゐと仮定した上で話を進める。

「人間を幸せにする程度の能力」を持つ因幡てゐ。彼女が語った証言はこうだ。

死んだ童は、裕福な育ちであった故に皆に暴虐の限りを尽くしていた。幸いにもその童の死は誰からも望まれていた事だった。その童を襲った銀毛の獣はどこか見覚えのある姿であり、何の因果か、童の屍体を満月が照らしていた。

真相と一致した点は①「童が死んだ事」、②「事件当時は満月の夜」。

対して、真相との相違点は③「赤銅の獣の存在」、④「銀毛の獣」、⑤「死んだ童が暴虐の限りを尽くしていた事」。

②「事件当時は満月の夜」は<<  人の慟哭>>にて慧音が動物化時であるため、事件当時は満月の夜であったことが察せられる。この一致点②と相違点④「銀毛の獣」、そして歌詞カードの因幡てゐのフキダシに描かれた「片方にリボンが結ばれた二本角の牛のような獣」。これらを合わせて考えると因幡てゐの証言は明らかに上白沢慧音を犯人だと言っている。

つまり、因幡てゐは童の死に上白沢慧音が関係していると知っていたと考えられる。『東方儚月抄 ~ Cage in Lunatic Runagate』にて歴史の進まない仕掛けが施された永遠亭に浸入していた過去が語られた際に浸入できた理由を月の頭脳・八意永琳ですら理解に及んでいない等、因幡てゐは底が知れない存在である事が原作においては示されており、長い間この地に住まう因幡てゐならば真相を知る手段を持っていても特段不思議ではない。もちろん、どの程度真相を知っているかについては推測の域を出ないが、白兎の証言をどう捉えるか。

㋑.白兎は、慧音が歴史を捏造した事も含め、真相を全て知っている。何も知らない妹紅に対して、事件の真相を伝えるのではなく、妹紅自身の歴史を捏造した犯人を仄めかす様に伝えた。妹紅が真相を知れば幸せではなくなるため、真相を伝えなかった。そして、慧音の介在を仄めかした意図は、歴史を捏造し、全てを背負った慧音に対する苦言・牽制である。

㋺.白兎は、真相を知っているわけではないが、慧音が歴史を捏造したことに気が付いている。何も知らない妹紅に対して遠まわしに「慧音にヒントがある」と伝えた。真相を知りたいと願う妹紅に対して、その望みを叶えた行動をとった。

㋩.白兎は、真相の全てを知らない。人里で耳にした話を膨張させながらも故意に妹紅を騙したが、結果的に真相は伝わらずに終わったため、妹紅は幸いにも真相を知ることはなかった。白兎は妹紅を幸せにする嘘をついたに過ぎない。

「人間を幸せにする程度の能力」を持つ因幡てゐの証言、その意図については上記の㋑㋺㋩以外にもさまざまな解釈があるだろう。

個人的には㋑の解釈がアリだと思っている。前項Aの解釈にて示した死んだ童を嫌われ者にした罪と、この悲しい事件の真相を、全て一人で背負った慧音に対して因幡てゐが苦言を呈しているという構図になる。「人間を幸せにする程度の能力」を持つ因幡てゐからすると、自分から全てを背負い、自ら不幸になろうとする慧音に対してあまり良い見方をしないだろうと考えた。


◇ブックレット

Xに区切られた歌詞カードに、左から、花屋の証言、素兎の証言、白沢の独白、それぞれの場面が描かれている。歌詞カードの裏には、もの悲しげな表情を浮かべ佇む動物化時の上白沢慧音、その前に膝を着く藤原妹紅。

花屋は阿求よりも背が高いことが伺えるが、この人物が求聞史紀に登場した『花屋の娘』なのかどうかは不明。『花屋の娘』の母親という解釈もありではないだろうか。

<<   人の慟哭>>の歌詞カードでは、タイトルの一部が黒いペンでグチャグチャと塗りつぶされており、この塗りつぶされた箇所に何か文字が書かれていたのだろうか。私は、「大罪」または「蓬莱」が書かれていたと思っているが、真相は藪の中のままである。また、フキダシが妹紅からゆらゆらと立ち上る煙のようになっており、歴史(記憶)が抜かれているような演出にも見える。私はこのフキダシの和紙の質感が好み。

そして、アルバム『密』の歌詞カードは表と裏で、それぞれ「秘密が守られた側」と「秘密が暴かれた側」に分かれた構造になっており、<<   人の慟哭>>を「秘密が暴かれた側」とすれば、こちらを事件の真相と解釈できるだろう。

イラストは『綜纏Vol.4 四百四描』に収録。


◇雑記

己が後天性の半獣人でありながらも常に人間側に立とうとし、人間のためなら厭わず能力を行使して守ろうとする行動を見ていると、上白沢慧音には献身・自己犠牲といった側面があるように私は思う。

『竹藪の中』においても能力を行使したことで事件の真相を慧音一人で背負う結果となっており、人間が大好きな彼女の精神への負担はとても大きいことだろう。事件の後の彼女はきっと、腑に落ちず、浮かない顔で青い空を仰いでいる、そんな幻が私には見える。

この記事ではスタンダードに推理したに過ぎないため、『竹藪の中』にはまだまだ謎が多く残されている。

因幡てゐが証言した「あてなる育ち故」が本当の事だと仮定すると死んだ童は多くの人に愛されていた(Aの解釈)とも考られるが、あてなる育ち故に等しく恨みもあったのではないかとも思えてくる。歌詞カードの白兎のフキダシに描かれた3人の赤と青の大人も謎が多く、その傍に童が倒れている事から、誰かの手によって赤銅の獣がその童を襲うように仕組まれていたようにも思えてしまうし、そもそも赤銅の獣の正体もイマイチ掴めない。事故とは言え結果的には妹紅が童に手を下した事になってしまったが、実は裏で真犯人がいてその状況を作り出していたのではないか。愛される故に恨みもあった場合でも、元々から嫌われていた(Bの解釈)場合でも、里に住まう誰かにこの童を亡き者にしようとする動機があったとも思えないか。

と、こんな妄想も可能である。

たとえ、<<  人の慟哭>>の内容が事件の真相であったとしても、

物語の裏側に潜む真相は、竹藪の中のまま。私は、そんな気がしてならないのだ。

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