ジ・アノニマス

笑顔を貼り付けた無名の集団


Featured in: 求
track: 2
arrangement: RD-Sounds
lyrics: RD-Sounds
vocals: めらみぽっぷ
original title: ほおずきみたいに紅い魂
length: 05:33


◇概要

「本能」をテーマとしたアルバム『求』のトラック2。

タイトルの ”アノニマス” とは ”Anonymous” 、「匿名の~」という意味を持つ英語の形容詞である。語源はギリシャ語 の ”ἀνώνυμος ”(アノーヌモス)であり、 否定の接頭語 ”ἀν” と「名前」を意味する ”όνυμα” の混成語、つまり「名前のない」という意味から由来している。

また、インターネットの用語で ”Anonymous” というと、大手匿名掲示板4chanを始めとする英語圏のインターネットコミュニティのデフォルトハンドルネームとしてポピュラーなものであり、日本の匿名掲示板でいうと「名無しさん」に該当する。

東方紅魔郷STAGE1の道中曲『ほおずきみたいに紅い魂』を原曲とする東方アレンジ楽曲だが、紅魔郷1面ボスのルーミアをテーマとしたアレンジ楽曲ではない。歌詞の内容とブックレットイラストから伺えるように「妖精」が主役の楽曲であり、歌詞中に登場する「没個性的」や「無名の集団」というキーワードから、特に妖精の中でも「名前が無い妖精」をテーマとされているようだ。

ブックレットイラストにて、妖精達と共に描かれている阿求らしき少女。イラスト集『綜纏Vol.4 四百四描』、はなだひょうさんによるコメントではこの少女は「阿求」である事が明言されているが、コメントの内容がはなだひょうさん自身の解釈である可能性も捨てきれない。しかし、求聞史紀における妖精への憎しみを感じさせるような書きっぷりなどを考えると、「少女=阿求」とすることにより『ジ・アノニマス』の解釈が面白くなる気がするので、私個人としてもこの解釈を推している。

他の解釈をするならば、「恨むこと この身を嘆いては ~」の歌詞から妄想して、先代からの恨みと憎しみを阿求が求聞史紀の文に込めたとするならば、阿求より前の御阿礼の子とするのもアリか?

この記事では、妖精という種族について復習してから『ジ・アノニマス』への理解を深めていこう。


◇雑魚妖精(名無し)

東方Project原作における妖精といえば、チルノやクラウンピースといったネームドな妖精キャラクターが思い浮かぶことだろうが、概要で説明した『ジ・アノニマス』というタイトルの意味通り「名前が無い妖精」に焦点を当てる。

意外と個性的?
愉快な雑魚妖精さん達

東方の世界観として「名前が無い妖精」というと、まず一例として、原作STG道中に登場する「雑魚妖精」が代表的だろう。いずれも通称の呼び名ではあるが、東方紅魔郷に登場した「妖精メイド」、東方地霊殿に登場した「ゾンビフェアリー」、東方花映塚から登場している「ひまわり妖精」など様々なバリエーションの「雑魚妖精」が登場している。原作STG以外では、東方三月精や東方儚月抄にモブとして登場した妖精たちが「名前が無い妖精」に該当するだろうか。

楽曲『ジ・アノニマス』の主役を「雑魚妖精」だと考えると、『ほおずきみたいな紅い魂』を原曲として抜擢した理由は「原作STG道中に登場する雑魚妖精のテーマとしてWin版東方最初の道中曲が妥当だから」とも考えられるか。1~3面ボスが主役となった楽曲の多いアルバム『求』における最初のボーカル曲が「雑魚妖精」のテーマだと考えると、ポジションとしてかなり相応しいようにも思えてくる。東方紅魔郷MusicRoomのコメントに書かれている「暗い森」や「コミカルな百鬼夜行」といったイメージも『ジ・アノニマス』の雰囲気にマッチしているようにも思える。

「雑魚妖精」に名前が無いかどうかについて、幻想掲示板にて「中ボスは雑魚の延長戦上の存在なので名前は必要ないと考えていた」というZUN氏の書き込みがあるが、これは「雑魚敵には世界観上名前が無いことになっている」よりは「雑魚敵や中ボスに名前を用意する必要がないと考えた」が文脈的に近いと思われるため、「雑魚妖精」の全てが名無しの存在とは限らないと考えられる。つまり、この記事での「名前が無い妖精」は「(もしかしたら名前があるかもしれないけど公式的には)名前が無い妖精」ということになる。


◇妖精の本能

元来、妖精とは悪戯好きな物である。それは妖精が最も自然に近い存在であり、自然を縛る物はこの世に何一つ無いからである。

―『上海アリス通信』三精版 第1号より引用

アルバム『求』のテーマは「本能」であることもあり、妖精の持つ本能とはどういったものかについて復習していきたい。

上記の記述によれば、妖精は「最も自然に近い存在」であるが故に何者にも縛られず「悪戯好き」な物だという。求聞史紀『妖精』の項おいても「自然現象そのものの正体」とあり、『ジ・アノニマス』の歌詞の通り、妖精は正に「自然の権化」といえよう。

主な危険度:  低
遭遇頻度:   激高
多様性:    高
主な遭遇場所: どこでも
主な遭遇時間: いつでも

―『東方求聞史紀』妖精の項より引用

また、「妖精」は場所と時間を選ばずに遭遇できるらしい。「自然の権化」たる妖精である故に大自然に囲まれた幻想郷ではどこにでも妖精は潜んでいる、ということだろうか。

確かに、原作STGにおいても、地底都市最深部(地霊殿6面)などの一部を除くほぼ全てのステージ道中に雑魚敵として登場しており、記述通りあらゆる場所で遭遇可能なことが伺える。しかし、原作STGにおいては妖精から能動的に激しい攻撃を仕掛けてきており、「危険度:低」とは言えないはずであるが、これには理由がある。

ただし、時として例外的に、悪戯を行わずにいきなり攻撃を仕掛けてくる事もある。
こういう時は気を付けなければいけない。それは、何かの警告である可能性があるからだ。
特に大勢の妖精が集まっていたり、騒いでいる時は、その付近にとてつもなく強力な妖怪が潜んでいる可能性があるので注意されたし。

―『東方求聞史紀』妖精の項より引用

上記の記述では、付近が危険な状態(例えば異変発生時など)においては妖精が大勢集まり、さらに凶暴性も増すという。

没個性的(アノマニス)な笑顔の裏に凶悪(グロテスク)な牙を持ち 多勢に無勢 群がり来れば 抗いようも無く 」という歌詞から察すると、『ジ・アノニマス』のシチュエーションは異変発生時などの危険な状況だったとも考えられる。

メタな話、原作STGに登場する雑魚妖精が「あなどってはならない」相手であるというのは良く理解できる。特に耐久力が高く厚い弾幕を貼ってくるタイプの妖精が複数同時に出現した場合、弾幕の厚さがボスキャラクターのものと同等にも及び、多勢に無勢、妖精とはいえど十分気を抜けない相手となり得るのだ。場面によっては、ボムを使って切り抜ける事がベストという事もままあるくらいだ。

本能とは「それらが生まれもって得た先天的な性質」である。

この項では「自然の権化」「悪戯好き」「危険な状態に場合は群を成して凶暴になる」といった妖精の先天的な性質「本能」を挙げたが、これらは東方の世界観における種族妖精に共通する部分といえるだろうか。

求聞史紀によると種族妖精は「多様性:高」なわけだが、チルノや光の三妖精などの「名前がある妖精」を見ると姿形と能力については多様性があるといえ、多様性のない共通した部分に関しては「本能」と括ることもできるかもしれない。(しかし、チルノとルナチャイルドは一般的な妖精とはだいぶかけ離れているようにも思えるが・・・)


◇ブックレット

6匹の妖精に衣服を脱がされようとしている稗田阿求(らしき少女)。衣服がほぼ脱げていて、とってもいかがわしく、露になった肌色に対して妖精ガードが発動している。(見せられないよ!)

この6匹の妖精たちは服と髪の色、髪型がそれぞれ違っており、没個性的と言う割にはやや個性的。ちなみに原作STGに登場する雑魚妖精(妖精メイドやひまわり妖精を除く)は4パターンの配色がされているため、この6匹の妖精たちが原作STGにおける雑魚妖精の色合いに対応しているわけではないようだ。

また、この6匹の妖精たちは例大祭16新譜RDWL-0029『奏』にて再登場している。『奏』のアルバム裏表紙には6匹の妖精たちが描かれ、一方『かばねのうた』では眠っている少女を囲うように5匹の妖精が描かれており、黄色い衣装の妖精が描かれていない。

この黄色い衣装の妖精は『ジ・アノニマス』のブックレット右下では鋏を持ち衣服を切っているわけであるが、この妖精と『かばねのうた』の眠っている少女の衣装と髪型が一致しているようにも見えるため、『かばねのうた』ブックレット中央の少女=黄色い衣装の妖精とする解釈もありだろうか。

ここに捨てられた子供が悪戯好きな妖怪に生きたまま連れ攫われ、妖怪として育てられる事もあったと言う。 親も我が子が死ぬ姿を見たくなく、もしかしたら妖怪となってでも生きているかも知れない、と思いたくてここに捨てたという悲しい話である。

―『東方求聞史紀』無名の丘の項より引用

さらに、求聞史紀『無名の丘』の記述と『ジ・アノニマス』の「間引かれた幼き子の生き写し」という歌詞を合わせて考えると、『かばねのうた』中央に描かれた少女は妖精に拾われて育てられた人間の少女なのではないかとも解釈できそうだ。求聞史紀によると『無名の丘』は間引きの現場だったこともあったらしく、遭遇する妖怪として妖精が挙げられているため、この解釈はそれなりに蓋然性があるように思える。

また、衣服を脱がされている少女が稗田阿求だとするならば、完全記憶能力により妖精の中に見覚えのある人間がいたから「生き写し」と考えたのかもしれない。

イラストは『綜纏Vol.4 四百四描』に収録。


◇雑記

妖精は、実は食事を取る必要がないが、人間が美味しそうに食事をするのを真似て、人間と同じ物を食べる。

―『東方求聞史紀』妖精の項より引用

妖精とは自然現象そのものであるならば、人間などの生物とは一線を介した存在のようにも思え、原作の描写からも死の考え方そのものが生物のものと大きく異なっていることが読み取れるわけだが、そんな妖精という種族は人間の「幼き子」の姿形をとり、人間の真似をするかのように文化的な生活を営んでいるわけだ。まるで、人間を模した存在であるかのように。

もし妖精の姿形は大自然の意思が人間を真似て造りだした存在なのだとしたら・・・?

そんなことを考えていくと、「多様な姿と精神を持っているのも人間の持つ多様性の高さの影響なのか?」、「同じ姿で生まれ変わるメカニズムとはどういったものなのか?」、「そもそも何故人間の姿形をしているのか?」、などなど様々な事が気になってしかたがなくなるのだ。

東方三月精や妖精大戦争といった妖精を主役とした作品が複数あり、妖精キャラクターの公式の出番が多いこともあって、かなり設定情報が充実している。故に、妖精はなかなかに考察・妄想しがいのある面白い種族だと、私は思う。

さて、『ジ・アノニマス』という楽曲からは「妖精の恐ろしさ」だけではなく、タイトルの意味どおり「匿名性を持った集団の恐ろしさ」という要素も感じられてしまうために風刺的な楽曲にも思えてくるし、「笑顔を貼り付けた無名の集団」の歌詞のイメージには例のガイ・フォークスの仮面がなんとも絶妙に似合ってしまう。

妖精と同じように、匿名の彼らも多様性が高い。(ネット上の)いつでもどこでもいる。同じ姿(ハンドルネーム)で復活もする。

では、危険性はというと、少なくとも「あなどってはならない」存在である事は確かだろう。

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