砂鉄の国のアリス

人形


Featured in: 宴
track: 4
arrangement: RD-Sounds
lyrics: RD-Sounds
vocals: めらみぽっぷ
original title1: 人形裁判 ~ 人の形弄びし少女
original title2: the Grimoire of Alice
length: 05:42


◇概要

『宴』のアリス枠。

この楽曲の歌詞には王国のお姫様と”僕”が登場する。お姫様は”僕”に対して名前と身体を与えたという。どうやら、お姫様と守る者という主従関係だけでなく、創造主と創造物の関係もあるようだ。

ブックレットに描かれる二人は『アリス・マーガトロイドらしき人物』と『霧雨魔理沙らしき人物』。

歌詞に登場する二人がブックレットの姿に倣っている・・・・・とは限らないのだが、「人形使いアリス・マーガトロイドを創造主とし、もう一方をアリスの創造物”人形”」とする解釈が一般的だろう。

逆パターンの解釈もありっちゃありすだが、原作の描写から霧雨魔理沙が人体を象った創造物を作る蓋然性はあまりなく、人形を作る活動をしているアリスならばその蓋然性があるため、これを一般的な解釈としたい。

しかし、アリスにしても霧雨魔理沙にしても一人称は”僕”ではないはずだ。

一人称が”僕”のキャラクターというと、2009年『宴』頒布当時では森近霖之助か初版蓬莱人形に登場する正直者くらいのものだ。

歌詞に登場する”僕”とは一体誰なのだろう。

また、この”僕”は何かに気がついた後に一人称が”私”へと変化しており、まるで二つの人格を持っているかのように見える。

『砂鉄の国のアリス』に隠された謎について私の解釈を書き綴ってみる。


◇人形に宿るもの

ちゃんと人形供養してる?
人の形をした物には色んな物が宿るわよ?

-『東方非想天則』博麗霊夢のセリフより引用

人の形をした物には色々なものが宿るという。上記のセリフは博麗霊夢のものであるが、八雲紫も同じようなセリフを発言しており、チルノも「あんたの人形には心が宿っている」と意味深なセリフを発言している。

人形とそこに宿る魂、その二つで構成される人形ならば”僕”と”私”の二つの人格を説明できるかもしれない。とりあえずは以下の二つが考えられる。

 ①”僕”を人形の人格、”私”を魂の人格とする

 ②”私”を人形の人格、”僕”を魂の人格とする

この場合、①は人形”僕”に霧雨魔理沙の魂を定着させたものと考えられ、②は霧雨魔理沙を材料にした人の形に”僕”の魂を定着させたものと考えられるだろうか。

ここで③つ目の考えが浮上する。もしかしたら霧雨魔理沙本人が全く係わっていない可能性もある。つまり、霧雨魔理沙ではない人間の身体と魂が材料になっていて、魔理沙に似せて作られただけの贋作なのかもしれない。

「偽りを抱く」という歌詞はその人形が霧雨魔理沙そのものではないことを示唆しているように捉えられ、霧雨魔理沙のものではない何かが人形を構成しているのではないか、と私は考えた。

いずれにせよ、霧雨魔理沙本人は既に亡きものとなっている前提があり、それがきっかけでアリスが狂行に走ったのかどうかについては定かではない。

ただ、『ヒカリ ~ Miscarried Princess』と話がリンクしているとするならば、この狂行の動機は歌詞に書かれている通りなのだろう。また、「とめどなく続いていく」という歌詞からは、この狂行は一度では終わらない事が読み取れる。

これからも続いていくのだとすれば、霧雨魔理沙に関係のない人間の身体と魂を材料に霧雨魔理沙人形を製作し続けるのだろうか。その所業は正に妖怪といえよう。


◇王国の主

砂鉄の国のお姫様アリス・マーガトロイド。

この王国とは一体何を指すのだろうか。二人だけの狭い王国、しかし、そこに王はいない。いるのはお姫様と姫を守る従僕だ。いや、王国の主であるのだからお姫様と女王を兼ねているのか?

この楽曲の一人称は”僕”であるため、”僕”にとってそこは王国のような場所ということだろうか。

この”王国”という表現は、アリスの戦い方と種族魔法使いの二つの要素が絡んでいるように私は思う。

『東方緋想天』などの対戦型弾幕アクションシリーズにおけるアリスの戦い方といえば、槍や弓などの武器を持った人形を兵のように操り、さながら王国の軍師のような戦いっぷりだ。

糸を通じて人形は操られ、お姫様を守るために戦う。人形にとってアリスは勅令を発する王国の主であり、守るべきお姫様でもあるという事だろうか。

もうひとつ、魔法使いという種族について。これはイメージ的な話になる。

一番の基本は魔法使いの罠に掛からないように注意し、相手のテリトリー内に入らない様にする事。

ー『東方求聞史紀』魔法使いの対処法より引用

魔法使いは敵をテリトリーに誘い込み有利を取る、『マッドパーティー』のように魔女の館へ誘い込むのだ。魔法使いにとって自身の館は日々研究に費やす研究所であり、多様なマジックアイテムを製作する工房であり、戦いが起こったのならばそこは罠が張り巡らされた強固な陣地となる。アリスは一人だけでも陣なのだ。

魔法使いの館は狭い王国の城であり、人形兵を操るアリスは王国の主なのである。

しかし、『砂鉄の国のアリス』のロケーションは王国だけでなく牢獄という表現もある。

これは”僕”が”私”へと覚醒し、王国の主の人形である自覚を失ったことでロケーションへの認識を改めた、と私は考えている。人形に宿らされた魂にとって、そこは牢獄でしかない。


◇砂鉄

砂鉄について少し。

砂鉄は純粋な鉄<シデーロス>ではない。磁石にはくっつくがあれはマグネタイトが朽ちた黒錆の粒だ。すなわち主成分は四酸化三鉄である。

歌詞の最後、”僕”の体躯は黒く染っている。これは「シデーロス製の人形の体躯が黒く錆び、やがてそれが崩れ落ちて砂鉄となった」、と考えられないだろうか。

赤錆とは違って黒錆は自然界で発生することのない化学変化である。黒錆とは正に魔法のなせる業なのだ。

”砂鉄の国”という命名は”蹉跌”との掛詞でありながら、やがては砂鉄へと朽ちていく蹉跌の結果を予見した命名なのではないだろうか。


◇ブックレット

アリスらしき人物と魔理沙らしき人物が寄り添う後ろ姿。

この二人のうち、どちらがアリスなのかは不明である。「長い金色の髪を紅く彩るシデーロス」の解釈のしようによっては、魔理沙らしき人物がアリスであるとも推測できるだろうか。

グラデーションのかかった花々のシルエットはミオソティスのイメージなのだろうか。淡い青紫がミオソティスのそれに似ている気がする。

赤錆びた色の劇場幕の中、うっすらと王国の城のシルエットが見える。しかし、左下に走るヒビが王国の脆さを表しているかのようだ。王国の脆さはさらさらと風に吹かれる砂鉄のごとくといったところだろうか?

ブックレットイラストは『綜纏Vol.1』に収録。はなだひょうさんの解釈も必見である。

『どうして…』のブックレットが見開きでつながっていることでレイ→ マリ→←アリの構図が浮かび上がり、我々の妄想を加速させてしまう。こういうところも面白い・・・。また、『ヒカリ ~ Miscarried Princess』のブックレットに描かれているスタチュー台座にもヒビがある。ここも見逃せない点だ。


◇雑記

RDWLナンバリングでは最初のアルバムとなる『宴』だが、『砂鉄の国のアリス』は凋叶棕初期の楽曲の中でも一際鈍い闇の光を放っている。

”砂鉄の国”という謎の多いタイトル、一人称の変化、王国から牢獄へと覆る世界観・・・。エニグマティクな数々の要素は凋叶棕初期の楽曲に関わらず界隈に与えたインパクトは絶大であったように思う。

『宴』の見開きブックレットに見る『どうして…』との関係性。聴き覚えのあるコーラスにその楽曲の意味を知る『ヒカリ ~ Miscarried Princess』。一つの楽曲としての考察だけでなく他楽曲とのつながりを匂わせる要素についても、今ではお馴染みのお楽しみ要素となっている。

当時から数多の議論を呼び、妄想ともつかぬ解釈の数々を思いかえせば、『砂鉄の国のアリス』はファンのイデアにとても大きい影響を与えたように感じるのだ。

P.S.

”囁き声”について書き忘れていた。ヘッドフォンで音楽を聴く人なら気が付くであろうあの囁き声だ。ストレートに考えるのならばやはり、声帯のない人形の声のイメージなのだろうか?

あっそういえば、1サビ後に聴こえる赤子のような声についても書き忘れてる!

ああ!なんかもう全部書き直したい気持ちが・・・!

書いていて思ったのだが、『砂鉄の国のアリス』、ネタ多すぎない?

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