name for the love

夜に秋めく


Featured in: 辿/誘
track: 4 (Disk1 tadori)
arrangement: RD-Sounds
lyrics: RD-Sounds
vocals: めらみぽっぷ
original title1: 天狗が見ている
original title2: 永遠の巫女
length: 06:29


◇概要

『辿/誘』のDisk1 辿の4曲目。烏天狗:射命丸文に抱かれた赤子、その傍らに添えられた「霊夢」と書かれた命名札。この曲は、凋叶棕において博麗霊夢の物語の始めを飾る曲となる。歌詞の内容は始終、射命丸文の視点で展開されており、イントロ部分にあたる括弧で括られているひらがなの歌詞は赤子へ語り掛けた言葉なのだろうか。

人間の子が「博麗の巫女」に成るということの意味、妖怪の身である射命丸文が博麗の巫女へ寄せる思い、そういった視点からこの曲への考えを掘り下げていくことにする。


◇あやれいむ基礎

『name for the love』をより楽しむためには、「射命丸文」と「博麗霊夢」のカップリング通称「あやれいむ」の知識が必要となるため、まずはおさらい。

漫画『東方儚月抄 ~Silent Sinner Blue.』第二十話では、月へ行った博麗霊夢が一向に神社へ帰ってこない様子を受け、射命丸文は以下のセリフを呟いた。

これはそろそろ新しい巫女を捜さなきゃいけない時期ってことか
もう何度目になるのでしょう
新しい巫女が新聞のネタになりやすい人間ならいいのですが

―『東方儚月抄 ~Silent Sinner Blue.』第二十話 射命丸文のセリフより引用

このセリフから分かる事は「博麗の巫女は血縁による世襲制ではなく、新たな巫女を捜す必要がある」ということ。ただし、博麗霊夢はまだ子を持たぬ少女であり、跡継ぎがいない場合の代替案として新たに捜す方法を取る、という可能性があるため、血縁による世襲制が完全に否定されたわけではない。また、”捜す”ということから人間であれば誰でもいいというわけでもないらしい。

博麗の巫女となった博麗霊夢が射命丸文と初めて出会った『東方花映塚 ~ Phantasmagoria of Flower View.』霊夢ストーリーでは、射命丸文は霊夢に対してこのようなことを言っている。

今までも、貴方達の面白い行動は全て記事にして来ました。
ですから、我々天狗は貴方達の事を良く知っているのです。

―『東方花映塚』射命丸文のセリフより引用 

そして、忘れてはならないセリフがもうひとつ。『東方風神録 〜Mountain of Faith.』stage4にて、射命丸文が霊夢へ放った言葉である。

貴方の事を一番よく知っているのが私だから。

―『東方風神録』Stage4 射命丸文のセリフより引用

『あやれいむ』好きにとってはもはや神話レベルのセリフ。ここから「どうやら射命丸文は博麗霊夢個人をとてもよく知っている人物なのだろう」と読み取れる。逆に博麗霊夢は射命丸文をよくは知らない様子。

以上の原作知識を踏まえて私なりに解釈&妄想。

烏天狗:射命丸文は先代博麗の巫女の跡を継ぐ人間を捜し出す任務が与えられていた。任務中「霊夢」という赤子を見つけ出し次期博麗の巫女として推薦した。霊夢の物覚えがつくまでは射命丸文が面倒を見ていたか、あるいはずっと見守っていたため霊夢個人をよく知る人物となりえた・・・?

こんな感じか。実は『東方紫香花』P.175で、霊夢には「適任な教育係」がいることを示唆する文章があるがそれとはまた別ということで。東方の二次創作において、次期博麗の巫女を捜す役目は「烏天狗」か「八雲紫」かの主に2パターン存在する。その内の前者、次期博麗の巫女を捜す役目は烏天狗にある、という解釈を採用した楽曲がこの『name for the love』なのだと思われる。


◇人間と妖怪と『博麗の巫女』

嗚呼、人でありながら「架け橋」としても生きよと言われて、
その持つ命は、いったい誰のものだろうか?

それは、きっと或いは。
全てを憎む運命か?

―『name for the love』の歌詞より引用

歌詞に出てくる「架け橋」とは、人間と妖怪の架け橋=博麗の巫女、妖怪と人間のパワーバランスを取るための調停者ということだろうか。素人考えで簡単に整理をする。

  • 「人間」にとっての「博麗の巫女」は、「博麗の巫女」が異変を解決し、「人間」を守る。
  • 「妖怪」にとっての「博麗の巫女」は、結界の維持を「博麗の巫女」が担い、存在意義の消滅から「妖怪」を守る。

どうやら「博麗の巫女」は両方から必要とされている存在のようだ。逆に、「人間」と「妖怪」から「博麗の巫女」の働きへ支払われる対価はあるんだかないんだかよく分からない(お賽銭とはいったい・・・)。この歌詞に思いを馳せていくと、「人間」でも「妖怪」でもない「博麗の巫女」という孤独な勢力が浮かび上がることだろう。

「人間」として生まれた霊夢が「博麗の巫女」に成るということの意味。身と心は「人間」であっても持つ役目と力は「人間ではない」というその矛盾を持ちながら、まだ命名決闘法もない血に塗れた妖怪退治を一任される、その責任は重く失敗すれば人間は大勢死ぬ、そんな残酷な運命が彼女を待っているのだ。”すべてを憎む運命”とはそういうことなのだろう。

その後の、凋叶棕の物語『emergence』と『嘘のすゝめ』では、その役目・力が故に霊夢が辛い思いをしている描写が登場する。曲同士が繋がっていることはRDさんより明言されてはいないが、合わせて聴くのもいいだろう。


◇「愛」

「愛」という言葉をたとい、私が囁いたとしても、
貴女がいずれ求める“それ”の代わりにはなりはしない。

―『name for the love』の歌詞より引用

歌詞に度々登場する「愛」とは何なのか、歌詞に記された文の心情から考えてみる。文が思う、いずれ霊夢が求めるであろう”それ”。それはたとえ射命丸文が霊夢へ愛情を注いだとしても得られないものであるという。きっとその理由は射命丸文が妖怪であるからだろう。

霊夢は博麗の巫女である前に身と心は人間であるため、いずれ求める「愛」はおそらくは人間の愛と考えられる。妖怪の「愛」は霊夢が求める人間の「愛」には成りえない、そう射命丸文は考えたのだろう。

しかし、人間の「愛」を求めたとして、「架け橋」である博麗の巫女は”それ”を得られるのだろうか、そういった疑問が頭をよぎる。儚月抄でのセリフを顧みるに、射命丸文は何度かこういった儀式に携わった経験があるようで、その後の博麗の巫女の行く末を見守ってきたとなると、その経験から人間の「愛」を得ることはできない運命を案じているのだろうか。

博麗の巫女は人間からも妖怪からも「愛」が得られない不幸な存在だと射命丸文は経験上よく知っていたのだろう。妖怪である射命丸文が霊夢に対して情が移っているかのような歌詞の内容になるのも頷ける。だが、歌詞には以下のようにある。

その名は、
ただ、ひとつの名は、
与えられたことが確かなら、
それこそ、そこに「愛」の在る、確かな証となるだろう。

―『name for the love』の歌詞より引用

「霊夢」という「名」、それが「愛」なのだと。「名」は「人間」にも「妖怪」にも種族関係なく平等に与えられる、もちろん「博麗の巫女」の例外ではない。赤子に「霊夢」と名付けた者が「人間」の親か、または通りすがりの「妖怪」か、その者が誰であろうと関係なく、名付けるという行為があった事実こそが「愛」を受けた確かな証。

曲終盤にて『name for the love』のタイトルを回収するの本当に好きです。


◇ブックレット

夜の神社、『射命丸文』とその腕に抱かれた赤子、『霊夢』と書かれた命名札、そして命名札に結ばれた赤い糸。イラストは『綜纏Vol.2 二旅』に収録されており、はなだひょうさんによると『辿/誘』のブックレットは赤い糸のテーマで統一されているとのこと。

『辿』のジャケットの左側、射命丸文の顔が描かれた部分に何か文章が書かれている。とりあえず内容を書き出してみる。

博麗ノ女選抜ニ係ル者ハ
左ノ条件ヲ具備ぐびスル者タルコトヲ要スル

―『辿』ジャケットより引用

どうやら博麗の巫女を選抜する条件が書かれているようだ。一から四までの条件があるようなのでそれも書き出してみよう。

一 親戚縁者其ノ他そのたそれ二類スル者ノ
存セヌコトガ明カナ者

―『辿』ジャケットより引用

要するにまず孤児であることが条件ということ。『東方香霖堂』P.15に「あいつは捨て子だったんだよ」という魔理沙の冗談じみたセリフがあったが、『name for the love』における霊夢も捨て子であったのだろうか。

二 妖怪ヲ畏レ乃至ないしハ忌ミ妖怪ニ
与スルおそれナキ者

―『辿』ジャケットより引用

妖怪を畏れ忌み嫌い、妖怪と結託するような者ではないこと。『博麗の巫女』が『妖怪』に極端に加担してパワーバランスが崩れることを防ぐための条件だろうか。どうやってこの性質を見抜くかは人の身の私にはよく分からない。

三 年齢概ネ満一歳ノ女子ニシテ
身心健全ナル者

―『辿』ジャケットより引用

満一歳の健康な女児であることが条件。確かに押さえておきたい条件である。

四 其ノ他特ニ選抜ニ於テ優良ナル
性質ヲ認ムル者

―『辿』ジャケットより引用

なるほど一芸採用もやっているらしい。霊夢にも「博麗の巫女」としての力だけでなく、「夢想天生」にも見られるような先天的な特別な力が宿っているようだ。

以上が「博麗の巫女」選抜の四つの条件となる。ブックレットをよく見ると文のポケットにこの条件文が書かれた紙が入っている。芸が細かい。

ちなみに、RDさん本人がニコニコ動画にアップロードした動画の1:27~1:29辺りに上記引用の選抜条件が流れる。 上記に記した条件の全貌はここで確認できる。実際私はこの動画見ながら書きました。

余談だが、ブックレットに高麗野あうんちゃんの姿が・・・ずっと見守ってる・・・尊い・・・。


◇アルバムとテーマ

『辿』は「たどりつくこと」や「幻想入り」をテーマに製作されている。『name for the love』で赤子が拾われた場所はおそらく幻想郷の外で、射命丸文に拾われた霊夢が幻想郷へ辿りつくという側面もこの物語にはあるようだ。

Disk2『誘』では「いざなうこと」をテーマに、『辿』収録のボーカル曲と対になるインスト曲をメインに構成され、『name for the love』と対となるインスト楽曲『今やファインダァは彼方から』が収録されている。原曲に『空飛ぶ巫女の不思議な毎日』が採用されているため、霊夢はもう空を飛んでいる『name for the love』の未来の話だと思われる。タイトルの”彼方”の意味は、RDさんのこのツイートを参考にすると事情が察せられる。新聞勧誘お断り・・・0点・・・つんでれいむはむしろフェイバリット!

凋叶棕合同『語』に渡瀬玲さんの『今やファインダァは彼方から』をテーマにしたイラストが寄稿されている。あくまで渡瀬玲さんの解釈ですが、このイラストでは幼い頃の霊夢の写真は近い距離から撮影されているのに対し、現在の霊夢の写真は遠い距離からの撮影となっている。また、同誌には川科さんによる『name for the love』をテーマにした三次創作漫画もあり、他にも素敵な三次創作が満載なので是非合わせて読んでおきたい一冊。残念ながら『語』は再販がされておらず、現在では入手難易度は高い。


◇合わせて聴きたい曲

凋叶棕では「博麗霊夢」をテーマに製作された楽曲は数多く、さまざまな楽曲と合わせて聴くことで凋叶棕の世界観を深めることができる。合わせて聴きたい楽曲の一例を列挙してみた。

▼少女飛翔曲 ~Everlasting Longing

「喩」収録。合わせて聴くことで、もしも霊夢が博麗の巫女に成らず文に育てられたとしたら、というifの世界を感じることができる。三次創作ではあるが、喩合同『たとえそらごと』も読むことをおすすめする。渡瀬玲さんのお話好きです。

▼emergence

「音」収録。博麗の巫女にまだ成りたての幼い霊夢が確認できる。霊夢の待つ残酷な運命のひとつ。烏天狗がこの頃の霊夢を記事にしていたとすれば、文はどのような心境だったのだろうか。

▼嘘のすゝめ

「騙」収録。「人間」と「博麗の巫女」は相容れぬ運命であったのか?この曲に登場する霊夢もまだ幼いようだ。

▼なにいろ小径

「随」収録。シリアス成分を摂取した後は明るい霊夢曲で一安心。実は現在の霊夢が一番幸せなのだろうか。


◇雑記

あやれいむ好きならば是非聴いておきたい一曲。『永遠の巫女』を原曲としていることもあってかシリアスな世界観となっているが、歌詞の後半で理解できる『name for the love』の意味もあり、シリアスだけでなくエモさもそなえている。ボーカルのめらみぽっぷさんは淡々と事務的な歌い方をしているようで、任務のために情を抑える『射命丸文』を思わせる。凋叶棕ではよくある話、原曲が使われている部分が分かりにくく、私の耳では原曲と交互に聴き比べてなんとなくそれっぽいと分かる程度で難しい・・・。

原作のセリフはもちろん、公式漫画のワンシーンから『東方香霖堂』の一文まで、原作より取り込まれた設定が幅広く多角的であり、ただ楽曲を聴いただけでは内容を理解するのは難しいと思われるため、中級者向けといったところだろうか。

「霊夢」の名に込められた意味について。実際の名付け親であるZUN氏は「勘の良い子に育ってほしいから」と名付けの理由について語っている(明大祭トークショー)。霊夢の勘が良いという描写は『name for the love』にはもちろん、凋叶棕の霊夢が登場する曲に度々出てくることがある。考察する上で、霊夢の名前の意味についても押さえておきたい部分である。

最後に、この楽曲についてRDさんの以下のツイートがあるので参考にペタリ。

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