コミックマーケット101にて頒布された凋叶棕新譜『軛』を聴きましたので感想を書きました。愚かにも欲望の赴くまま感想を書いてしまいましたのでお読み苦しい部分もあると思いますが、どうかご容赦ください。
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本記事にはネタバレが含まれておりますので閲覧の際はご注意ください。もちろん『東方鬼形獣 ~ Wily Beast and Weakest Creature.』および『東方剛欲異聞 ~ 水没した沈愁地獄』のネタバレも当然含まれます。まだ『軛』を聴いてない或いは鬼形獣と剛欲異聞をプレイしていないのに読もうとしているあなたはまず畜生界へ逝ってみることをお勧めします。
◇弱肉強食こそ、畜生の理だ!
2019年8月に東方鬼形獣が頒布されて3年と少し経った現在。東方剛欲異聞も無事頒布され、邪神を打ち倒した三組織の組長もようやく出揃いましたね。
ちょっとこのタイミングで東方鬼形獣をおさらいしてみましょうか。
神主曰く「畜生界という世界があって、いろいろと要素が広がっているよ」というのを見せる、畜生界のお披露目が東方鬼形獣のお話だそうです。まずはこれを抑えておきましょう。
畜生界とは、究極の弱肉強食の世界。強い者が欲望のままに「支配」し、皆が我欲を貪る世界です。
末法の世に編纂された仏教書『往生要集』によれば愚痴無慚な者、要するに「物事の道理を知ろうともせず、自分だけが正しいと我欲のために生き、犯した罪を反省しない者」が畜生道へと転生するのだと言われています。畜生の道に堕ちた衆生は畜生と成り、我欲のまま他の畜生を餌として貪ろうとします。ですが、この世界は弱肉強食、畜生にも力の序列があります。弱者は常に餌を求め襲いくる数多の畜生に怯え、強者だとしても競争の果てにもっと強い畜生に喰われてしまうのです。壮絶な生存競争の中で昼も夜も心が安まらない、恐怖と不安を象徴した世界が畜生道です。
東方Projectの畜生界では、有力な動物霊によっていくつかの巨大組織が構成され、人間霊と動物霊は各組織に隷属する奴隷として描かれます。特に人間霊はヒエラルキーの最底辺で《道具》、《餌》、《奴隷》、《素材》といった万能奴隷として動物霊に「支配」されていました。
無力さを呪った人間霊は起死回生に懸けた祈りによって造形神を招喚。神は人間霊に偶像を与え、畜生界とは相容れない利他の精神によって弱肉強食の理を塗り替えようとしていました。それが東方鬼形獣の異変のきっかけとなります。
さて、造形神を招喚した人間霊は何を祈ったのでしょうか?
「支配」からの解放と自由を祈ったのか?
或いはまた別の・・・?
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これぞ畜生の所業なり!いつもよりダークで、けもの成分多くて、ちょっぴり攻撃的な一枚!
今作のテーマは「支配」です。鬼形獣のストーリーを振り返れば確かにこのテーマがピッタリですね。
『軛』というタイトルは「支配」の要素もありつつ獣らしさもあって秀逸だなあと感じます。「軛」を意味する英語 ”yoke” も日本語と同じように「支配」の比喩表現として使われる場合があります。「タタールのくびき」で有名なロシアでは “и́го”と書かれ、これも同様の意味を持ちます。軛は人類に共通するような概念なんですね!
勁牙組、鬼傑組、剛欲同盟の動物霊三組織の長たちと人間霊による破滅的組織をそれぞれボーカル楽曲として表現され、インストアレンジで一連の流れを繋ぐことでアルバム構造が作り出されています。つまり、畜生界一色で染められたアレンジアルバムというわけです。凋叶棕では登場機会が多かった霊夢や魔理沙も今作では登場しません。・・・してないですよね?
いつもの通りではありますが、原作からの引用が多いので原作をやりこんでいるほど楽しめる一枚になっている印象です。特に今作は東方鬼形獣に焦点が当てられ、より集中的に深堀されています。収録楽曲こそ少ないですが、非常に濃度が高い作品だと感じます。原曲の使われ方もより集中的で鬼形獣の原曲(+饕餮のテーマ)のメロがふんだんに使われています。原曲メロが常に流れてるんじゃないかってくらいなので耳と脳が忙しいです。
「まだ鬼形獣について理解が深められていないのであれば、この機会に東方鬼形獣のストーリーと世界観について深く考えてみてはいかがでしょうか?」と、そんな声が聞こえてくるようなアルバムだと思いました。
あと、これ重要なのですが、東方外來韋編 2019 Autumn掲載の神主インタビューも読んでみるのも良いと思いますね。もちろんプレイ後に。
◇畜生のごとき開封
今回の冬コミはお留守番です!なので起床初手メロンブックスをキメました!委託をされているサークルさまにはいつも感謝しかありません!とてもありがたいです!
年末年始のメロンブックスはとても混雑しますので感染対策などはしっかりしておきましょう。店舗によっては整理券配布や入場制限もあるのでいつもと違うお祭りって感じの雰囲気があります。年末年始は営業時間が変更になっている店舗も多いのでちゃんと調べてから突撃するのが良いでしょう。
メロンブックスの店舗に入荷しているかどうかが心配な方は、メロン特設ページに「カートに入れる」ボタンが出てから少し時間が経てば店舗ごとの在庫状況が見られるので特設ページをマメにチェックするのが良いです。もし店舗に行ってお目当てのものが無かった場合はまだ陳列されていない可能性があるので、頑張ってるメロンの店員さんを温かく応援してあげましょう。
さて、『軛』を無事入手できたので開封していこうと思います。
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今作のジャケットは威圧的でダークなのに少女可愛い雰囲気が良いですよね。三組織それぞれが人間霊をどう見ているかよく分かります。あと、アルファベットで構成されてるような凋叶棕のロゴデザインが意味あり気で素敵ですね。
裏面確認!痛恨の誤字も確認!
帯の文も雰囲気あるよなぁ。
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外装をはがしてケースを開けます。
あっ邪神だ。丸い格子窓の枠が「軛」の文字になってるのが良いですね。
CDレーベルの英文最後が意味深。Youは私ってコト???
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CDを外すとまたまた邪神。宗教観崩壊太郎。
ドライブにセットして曲数確認!!!
六!!!
◇楽曲の感想
畜生界送り×1、組長×3、境界×1、邪神×1で構成された全6曲のアルバム。隠しトラックはないと祈りましょう。
わー!地獄みたいな楽曲がいっぱいだぁ!ちなみに神主によれば畜生界は大きく見れば地獄の一つらしいですが、今作では地獄と畜生界で曲調が分けられているとも感じます。
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M01. 愚か者の彼岸
アルバム『軛』のイントロダクションを飾るインストアレンジとして、完璧と言えるほどの一曲だと思います。
愚痴無慚な者、愚か者が畜生界に転生するわけですから『愚か者の彼岸』というタイトルはリスナーがこれから畜生界へ逝くことを示唆していると考えられます。
しかし、畜生界と人間界の間には大きな隔たりがあるので人間界からは直接逝けません。東方Projectの世界では地獄の隣に畜生界があるので人間界から畜生界に行くには地獄を経由する必要があります。うーん、愚か者にとっては彼岸とは何処なのか、彼岸から地獄なのか、地獄から畜生界なのか、という疑問がわきますよね。インストアレンジは歌詞から得られる情報がないため、解釈次第で思い起こす情景が大きく変わってきます。なので解釈はハッキリさせておきたいです。
私は「地獄から畜生界」と解釈しています。理由に曲調にあります。
神主によると畜生界が舞台となる5面6面は逆で本来の畜生界は激しい曲調のイメージ、対して地獄はしっとりとした曲調なんだそうです。『愚か者の彼岸』ではしっとり目のピアノで始まり、後半から激しい音が鳴っているので地獄から畜生界への道のりが愚か者にとっての彼岸なのだと考えています。鬼形獣ではあえて逆にされていましたが、『軛』では本来の畜生らしさのある畜生界が3組長のアレンジとして表現されているので、後半部分が激しいのかなと。
しかし、次の『Subhuman』で「業風」という単語が出ているのがちょっと気になりますね。もちろん4面ステージタイトルの要素ですが、業風が吹くのは地獄なのでもしかしたら『愚か者の彼岸』はまだ畜生界にたどり着けてないのかもしれません。原曲も『アンロケイテッドヘル』ですし。うーん、そこはやはり解釈次第ですね。細かい所が気になる。
M02. Subhuman
人間霊は《道具》。体験版では猛威を振るったメイン盾兼稼ぎ頭のカワウソ霊たちが属する鬼傑組、その組長である吉弔八千慧をイメージしたソング。イラストとめらみさんの圧がすごい。めらみさんに跪きたい人向け。いや、めらみぽっぷ様と呼ぶべき。
鬼傑組、鉄の掟は「搦手こそが最短最良」です。「搦手」とはポケモンで例えると挑発で止まるような真っ向勝負ではないズルい手段を意味していますが、人の弱みに付け込んで搦めとる行為も「搦手」と言います。
畜生界に堕ちた力の弱い者、特に人間霊に対して囁いているような歌詞ですよね。「お前は畜生界でこんな目に遭うぞ」、「何も考えず一切を捨て≪道具≫となれ、それがお前の幸だ」と。弱みに付け込んで人を支配し、道具として利用する893的やり口は吉弔八千慧のイメージにかなり合ってます。
タイトルの『Subhuman』とは「人でなし」、つまり「畜生」を指していると思っています。「人でなし」という言葉はヒトに対して言うから意味を持つのですから、元々はヒトであった者に対して「畜生」と言ってるようなイメージだと思うんです。畜生界へ落ちた人間が何も考えられない畜生のようになっていく様が表現されているのでタイトル的にもピッタリだし、このアルバムで最初に出てくる組織としてもピッタリだなって。
常に心休まらぬ競争社会の中において、弱者は強者に依存して思考や倫理などヒトとしての一切を放棄すれば精神的に楽にはなるでしょう。しかし、そうしてしまえば最早ヒトとは呼べぬ畜生(Subhuman)です。
原曲の意味も重要で『アンロケイテッドヘル』の「位置の不明瞭さ」と「畜生界に堕ちた弱者の恐怖と不安」が上手く紐づいている感じなのもいいですね。幸運と不運、確かに強者に依存して使われることが幸運であり、吉弔に目を付けられてしまったことが不運でもありますよね。意味の込め方がとてつもなく上手い。
イラスト、最高ですね。なんだその吉弔のエッチな手つきは。見た目が厳ついわけでもないのに妙な威圧的なのが吉弔らしくて素晴らしい・・・。吉弔、ほんと顔が良いな・・・。あと、尻と表情も良い・・・。良いとこ尽くし・・・。
M03. 輝かしきその掟
人間霊は《餌》。ヤラれる前にヤる性能のオオカミ霊たちが属する勁牙組、その組長である驪駒早鬼のイメージソング。足が速いやつは行動が早い、弾幕も速い、そしてしゃべるのも速い。
勁牙組は腕力や脚力などの強靭な肉体を武器とする畜生界の掟を体現したかのような弱肉強食な組織です。ポケモンで例えるとスカーフやハチマキ巻いてる・・・そういえば驪駒早鬼もスカーフを巻いてましたね。『輝かしきその掟』というタイトルも直球でいいですね。原曲タイトルからあえてひねってない感じが実にそれっぽい。マッスルエクスプロージョンみがある。
アレンジ方針も直球のロック。イントロのゾクかよって感じの音圧、サビ前のドギューン、ラスサビから始まるもの凄い勢いで走ってる感あるドコドコドラム、好きな部分が多すぎますね。印象的な原曲のイントロ部分がふんだんに使われていて分かりやすいです。うーん、やっぱ、2サビ後『輝かしき弱肉強食の掟』のメロが好きかな~~!!!タイトルが『聖徳太子のペガサス ~ Dark Pegasus』のメロで歌われてたところにようやく!という感じが良いですね。
イラストが実に暴力的!サイケデリックともインド色彩ともつかないダークカラーを中心の極彩色がイカしてます!そして足!足!足!今から喰うぜって感じの口!物騒な歌詞も相まって最強です!人間霊は《餌》!(興味本位で階調反転してみたら髪の毛も尻尾の毛も黒になるのですが、色使いがファンシーな感じに・・・。)
そういえば『Subhuman』では業風でしたが、『輝かしきその掟』では暴風。ステージタイトルが吉弔八千慧と驪駒早鬼でお揃いなのが印象に残っているので気になってしまいましたが、業風は業の深さを風に例えた言葉なので驪駒早鬼の比類なき脚力によって発生する力こそパワーな風とは違うんですよね。だから業風ではなく暴風が相応しいと。なるほど・・・。
M04. 呪い狂える魂の歌
人間霊は《奴隷》。近づかないと5本ともホーミングしてくれないオオワシ霊が属する剛欲同盟、その同盟長である饕餮尤魔のイメソン。金!国!憎しみ!セリフからの引用要素が多い!
剛欲同盟はプライドが高いだけだの実力が劣るだのオオワシ霊が弱いだの散々に言われている組織ですが、勁牙組や鬼傑組のような「組」ではないと思うんですよね。なんというか饕餮尤魔の強欲な生き方に感化された者が「同盟」として集っているイメージがあります。
饕餮尤魔は無駄な争いを好まず、まずは相手を抱き込もうとし、協力関係も結べないなら撤退します。さらに饕餮尤魔は部下を持つことに執着しません。気に入った者を剛欲同盟に勧誘はすることはあっても、同盟に入れと脅す、抜けるなら指を切り落とすといった一方的な強制力はない気がしています。そうなると剛欲同盟を選んでいるのは部下側と考えるのが自然です。
つまり、饕餮尤魔の無敵の能力や強欲な思想、モットー『漁夫の利』によるスマートな奪取に感化された動物霊が己の自由意思で剛欲同盟に所属することを選んだのではないかと考えられます。また、剛欲同盟に属する動物霊は徒党を組まないので仲良しファンクラブではなく、同じ思想を共有する独立した模倣者たちのイメージが近いです。Stand Alone Complexに近く思えますが、動機なき他者の無意識や動機ある他者の意思への内包とはかなり違いますね。
しかし、ここで気になるのは剛欲同盟における「支配」、饕餮尤魔による「支配」とは何かです。部下に執着しない長、単独行動者で構成された組織、他の組織と比べて支配力があるように見えません。しかし、ウェーバー三類型で考えると、本来は正当性を持たない暴力支配を畜生の理によって正当性のある支配とした勁牙組などとは違って、饕餮尤魔の非凡なる素質が生んだカリスマ的支配と考えれば「支配」の妥当性があると言えます。
ただこれはオオワシ霊などの動物霊に限った話だと思います。人間霊は動物霊と力の差があり過ぎて「同盟」として同じように肩を並べることなど不可能だと思うんですよ。自由意思による選択権が存在しない物言わぬ資源としてしか扱われない、故に人間霊は《奴隷》なんだと解釈をしています。これはカリスマ的支配とは違います。ただ強欲なままに資源を支配しているだけです。
えー、思考整理が長くなりましたが、まとめると、剛欲同盟における「支配」とはカリスマ的支配と資源に対する強欲さが生む支配の2種類あると思っています。『呪い狂える魂の歌』における「支配」は後者を焦点としており、饕餮尤魔のカリスマ的側面も演出しているんじゃないかなって思いました!畜生組織として剛欲同盟が異質すぎるので解釈語りが長くなってしまった!
人間霊を《奴隷》という資源と考えるなら剛欲異聞に登場した呪われた有機物「石油」も同じような資源ですよね。邪神および偶像軍団と全面戦争して人間霊を再度《奴隷》とするよりも、手付かずの石油を燃料とし栄養豊富な餌とする方が遥かに合理的です。
剛欲異聞における石油とは生物由来の生成物であり、生命の恐怖、哀楽、憎悪、怨嗟の全てだと語られています。そんな呪われた有機体の声に対して「人間霊に変わる新たな《奴隷》として我に支配されよ」と饕餮尤魔は命ずる、それが『呪い狂える魂の歌』のイメージだと解釈しました。「石油達も大騒ぎしているよ」というセリフからして饕餮尤魔には石油の声が聞こえているようですよね。
ブックレットに描かれた有機体がマジで素晴らしい!呪わしく絡み合うヒトの手、金、財宝、燃え盛る炎、戦闘機。有機体のメメントが盛沢山!壮大でありながら有機体の強欲さが溢れる呪わさが饕餮尤魔のイメージにすごく合致しています!
アレンジ方針も壮大な感じで原曲メロのめらみコーラスが強すぎる!俯瞰視点で戦う組織だから壮大でゆったりしてる感じなのかな?ドロッとした液体のようなモゴモゴ篭ったような音も石油っぽい感じですごく良い・・・。
M05. 人間と獣の境界
畜生界の3つの組織を回ってみたわけですが、ここで人間霊と動物霊の違いが気になってきます。
吉弔八千慧の「私を含めほぼ全ての霊が奴隷のような扱いを受けていて、それは自然なことです」というセリフを真に受けるならヒエラルキーの違いはあれど人間霊も動物霊も等しく物言わぬ奴隷であるはずです。畜生の道へ転生した衆生はみな畜生と成っていくのであれば尚更違いが無くなっていくような気がします。これでは人間霊はただ最弱なだけの畜生です。
しかし、東方鬼形獣のストーリーを思い返せばどうでしょう。祈り、信仰心、偶像崇拝、利他の精神。これら宗教の概念は弱肉強食を理とする畜生界にはないものです。動物霊は宗教の概念を持たぬゆえに地上の世界から宗教パワーを持つ博麗霊夢を呼び込んで邪神にぶつけてきたわけです。人間霊と動物霊が明確に違う点はここにあります。
55秒当たりと2分過ぎ聞こえてくる金属が触れ合うような音が気になりますね。奴隷が付ける鎖のイメージなんでしょうか。2分後半の畜生界らしい音を越え、3分を過ぎると「いつものテーマ」が流れましたね。私には祈る人間霊の姿が見えます。
この祈りこそが『人間と獣の境界』なのでしょう。
でも、どうでしょうね?宗教の概念は動物霊との違いを示しているだけであり、人間霊が畜生ではないことを示すものではないように思えますが。
M06. salvator noster
《道具》《餌》《奴隷》。そのどれも望まなかった人間霊がたどり着いた答え。軛からの解放、支配からの『脱却』を望み、救世の神を招喚するために祈りを捧げる。だが!救いのない世界に降臨したのはIDOLA – DEUSという邪神だったのです!人間霊は《素材》!だがそれは人間霊が自ら望んだこと!
まず音楽的な感想言うと「気持ちいい」です。全体的に韻の踏み方が気持ちよく、特に救世の神を望む声の気持ちよさがすごい!めらみさんのボイスほんと好き!あやうく洗脳されそう。ラスサビの転調も気持ちいい!原曲の爽やかさメロディアスさが存分に出ています!
あと、おどおどろしい「いつものテーマ」!これよ!もう邪神なのよ!これからヤバい闇解釈で鬼形獣を語るぜ~って感じなのよ!あまりに露骨過ぎて顔ニヤニヤするわ!
さて、「袿姫は人間霊を《素材》としか思っていない」「人間霊が素材になりたいと望んだ」というのは東方鬼形獣の作品中で直接描写があるわけではありません。ソースとしては神主のインタビューでの発言であるため、限りなく公式に近いですが、作品の中で閉じた枠で見るのであれば解釈が分かれる部分になります。というのも、同じインタビューで「人間霊が神に支配されているのかどうかはわからない」「このゲームではそこには結論を出していない」とも語られています。そもそも妖夢カワウソEDで袿姫は資源扱いされる人間霊を憐れんでいます。なので、あくまで解釈の一つだと思った方が良いかもしれません。
『salvator noster』の面白いと思う部分は1コーラス目とそれ以降の違いです。おそらく救世の神を招喚しようとした時には軛からの解放を望んでいたはずだったんですよね。これが1コーラス目。しかし、そうはならなかったのが2コーラス目です。皆が皆解放を祈らなかったのか、畜生の支配に依存し続けたために素材と成ることを祈ってしまったのか、与えられた偶像に依存してしまった結果なのか、そこが気になる部分です。
途中、《道具》《餌》《奴隷》の振り返りがあります。それぞれに対応した原曲が使われていて、これまで『軛』を聴いてきた我々に重なるように人間霊は今までの「支配」を思い出しているんだと思います。《道具》《餌》《奴隷》のどれもが嫌だ、でも願いを聞いてもらえるのであれば神に《素材》として支配されることを望むと。
「動物霊たちに支配され続けた結果、支配者のいない世界など想像もできず、動物霊からの解放を望むも新たな支配者を求めてしまった」という流れに思います。人間霊は動物霊との違いはあれど強者からの支配に依存してヒトとしての矜持を放棄してしまう愚かな畜生でしかなかったということです。
この部分は神主インタビューで少し触れられていますが、「そう(信仰して喚んだ時は素材になりたかったわけではない)かもしれない」と語られているので解釈が分かれます。また、霊夢カワウソEDで「結果、自らも支配される事になるとは知らずに」と吉弔八千慧が語っていますが、これは動物霊側の認識なので何とも言えません。
正直なところ、『salvator noster』は一番最悪な解釈のひとつだと思いますね!まあでもテーマ「支配」なので相応しい末路ではありますね。(まあ畜生界に堕ちた愚か者ですしインガオーホー・・・)
宗教観崩壊太郎なブックレットがめちゃくちゃ好きですね!鬼形獣って仏教の畜生界に神道の埴安神にキリストのDEUSですからね。めちゃくちゃなのがめちゃくちゃ合ってる!しかもこの合掌!招喚に応じたのは観音様でも父なる神でもない造形神ぞ???当然、畜生の道から救済してくれるわけではなく、せいぜい土と水で美しくフィギュアにしてくれるか造ったフィギュアをくれるかですよ!この邪神は!これで降りてきたのが観音様であれば結果は違ったのかもしれないですね・・・。まあそうはならなかったんですが。
気になる部分が他にもあります。それは人間霊には埴安神袿姫が視えていたのかどうかです。歌詞の中では「”理想”の神影」「支配者の影」という表現があるのでハッキリと視えておらず、己のうちにある”理想”の支配者を偶像として見い出してしまったんじゃないかと解釈しています。つまり、支配者のIdoratrizeであると。テーマ「支配」によって『偶像に世界を委ねて ~ Idoratrize World』のタイトル解釈がこうなってしまうとは・・・最悪度が高い・・・。
◇好きなワンフレーズTOP5
聴いていてグッと来た部分を紹介します。
1位 「揺れる支配者の影~」の転調
『salvator noster』より。「あ゙あ゙~~!」ってなる気持ちよさがあります。洗脳されそう。
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2位 2サビ後『輝かしき弱肉強食の掟』のメロ
『輝かしきその掟』より。素直にかっこよい!中二力上げていきたい!
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3位 「その愚かさがために~♪」の裏メロとコーラス
『呪い狂える魂の歌』より。そこ!わかる!『強欲な獣のメメント』はそこが好き!『salvator noster』の「欲の満ちるままに~♪」もここ!同じく好き!
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4位 さあ跪け——
『Subhuman』より。ドMにはうれしいドSめらみさん。いや、めらみぽっぷ様。強い言葉いいね・・・。
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5位 その祈りは何を喚んだのだろうか——。
『salvator noster』より。後悔すら感じさせるような最悪度が高い一言。どう考えても邪神です。でもね、人間霊も所詮は畜生だからやっぱり支配されるのを望んじゃうのがかわいそう!
◇まとまらないまとめ
濃度が高すぎて頭おかしくなる!
一言でいうとコレです。マジで濃い。6曲アルバムに詰め込む情報量じゃないです。
東方鬼形獣を主題としているのは一目瞭然だし、テーマが「支配」と直球だったので東方鬼形獣をストレートにお出しされるかと思っていましたが、原作のありとあらゆる設定と描写を重箱の隅をつつくがごとく拾い上げ、さらには制作者の言葉までも最大限汲み取り、己の解釈を二次創作として見事にまとめ上げられています。これはなかなかできないことだと思います。
最近の神主はメディアへの露出が多くなり、制作した作品について語る機会も多いです。しかし、あえて言い切らず「そうかもしれない」「僕はこう考えてる」とぼかすように語られています。制作者が自ら語るのではなく作品で語る、そういった姿勢があるように思えるのです。まるで『軛』はそんな神主に対してアンサーを返しているかのよう。しかも神主の考えも汲み取った上で「こうなんじゃないか」と二次創作で返しているのです。創作者として実に真摯な姿勢だと思います。
『軛』は東方鬼形獣について考える行為がもの凄く楽しくなる作品です。
畜生とは何なのか、畜生界はどういう世界なのか、勁牙組と鬼傑組と剛欲同盟の違いは何なのか、人間霊は何を祈ったのか、どのようにして人間霊が偶像に支配されたのか、等々。
基本に立ち戻って東方鬼形獣を考えてみると深みにはまって止まらなくなってしまいます。故に書いた感想が解釈の話だらけです。もはや感想になってないかもしれないですが、解釈の深みにはまってしまったというのが感想なのかもしれません。だが、それは偏に東方鬼形獣が凄まじいパワーを秘めた作品であるという証左でもありますね。やはり、神主は天才・・・。
正直に言うと『軛』を侮っていました。これは反省ですね・・・。
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次にブックレット。各ボーカルのイラストも上で書いた通り素晴らしいものでしたが、作品全体として「軛」の文字を象った丸い格子窓の枠をどう解釈するかが鍵になる気がしています。
この窓枠の手前側にキャラがいるか、向こう側にキャラがいるかで何か違うのかなと思ったんです。動物霊3匹がいるジャケットの裏側1P目の窓枠、ケースを開いたときに見える埴安神袿姫の窓枠、レーベル面の窓枠、ケースの裏側バックインレイの窓枠、これら4つの窓枠はジャケットに対して左右反転していません。つまり、CDケースを立体的に捉えずに平面的に手前側か向こう側かを判断すればよいと考えられます。
面白いのは『salvator noster』のブックレットの窓枠。ケースを開いたときに見える窓枠では向こう側に埴安神袿姫がいます。しかし、『salvator noster』の窓枠では手前側に埴安神袿姫がいるのです。ジャケットの組長たちは手前側です。つまり、『salvator noster』における埴安神袿姫は組長たちと本質は同じく支配者側なのではないか?と解釈できるような気がしてきます。
まあ3匹の動物霊たちは向こう側にいるので考えすぎかもしれないですが、気になる部分ですね・・・。
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次に原曲の話。盛り込み方が素晴らしいと思います!原曲の個人的に好きなフレーズがふんだんに使わていてそこ!そこが良い!のオンパレードです。東方鬼形獣でテーマ「支配」という直球さがあるからか、原曲がすごく前に出ています。もちろん饕餮のテーマもすごく前に出ていて最高ですね。
ですが、良くないことが起こりました。
『軛』を聴いてから少し経ったある日、私は大好きな『エレクトリックヘリテージ』を聴いていました。
聴こえてくるんですよ。邪教徒どもの声が。あのラテン語が。
よくない!
何が良くないって6面道中は人間霊っぽいの出てきますよね!!!『エレクトリックヘリテージ』流れますよね!!!例のフレーズ来ますよね!!!洗脳された邪教徒が歌ってるようにしか思えなくなる!!!!!
私の中では人間霊が決死の覚悟で獣サイドの自機に特攻しているイメージなのでそのイメージが上書きされるぅぅ!やめてぇ!ってなりました(ただの難癖なのであまり気にしないようにお願いします…)
結論、原曲のメロに歌詞を乗せた解釈の強い東方アレンジは危険。用法用量を守って聴き過ぎに注意しましょう。
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以上!感想終わりです!
好きな楽曲は選ぶのは難しいです。なんというか『軛』は6曲全てセットですし、原曲も全部好きで鬼形獣は作品としても大好きなので全部で良いですか?
いつも74分フルに詰め込んで隠しトラックなどの盤外戦術もしてくるイメージの凋叶棕ですが、今回は焦点を絞って短くまとめてられているのが新鮮でした。6曲で再生時間も短いのに濃度が高く感じ、この路線でも楽しめたと思います!
でも、邪教徒はゆるさない。あとで精神ダメージ受けながらオオカミ霊夢で殲滅してくる。