インパーフェクトメイド

broken-maid


Featured in: 音
track: 3
arrangement: RD-Sounds
original title: フラワリングナイト
length: 03:09


◇概要

『音』収録のインストアレンジ『インパーフェクトメイド』。十六夜咲夜のスペルカードのひとつである銀符「パーフェクトメイド」からの命名と思われ、「完全」を意味する単語 “perfect” に否定の接頭語が付いて “imperfect” となり、タイトルを直訳すると「不完全なメイド」という意味になる。

十六夜咲夜をイメージして作曲されていると思わしき原曲は『月時計 ~ ルナ・ダイアル』、『メイドと血の懐中時計』、『フラワリングナイト』の三曲。『インパーフェクトメイド』はその中でも『フラワリングナイト』を原曲としている。

十六夜咲夜のテーマです。
咲夜の曲って紅魔郷のハードなのしか無いので、今回は人間らしいあるいはとぼけた一面を曲にしてみました。
私には妙な違和感を感じるメロディなんですがどうでしょう?
何が妙って、東洋風だと思って聴けばそこはかとなく東洋風だし、西洋風だと思えば西洋風。子供っぽいと思えば子供っぽく、大人びていると思えば大人っぽい。そう思うの私だけですか?

―東方花映塚 Music Room『フラワリングナイト』より引用

ZUN氏によれば東方紅魔郷における咲夜の曲『月時計 ~ ルナ・ダイアル』と『メイドと血の懐中時計』はハードな曲であり、『フラワリングナイト』は咲夜の人間らしいあるいはとぼけた一面を表現しているらしい。つまり、『フラワリングナイト』は弾幕ごっこ中のハードロックな十六夜咲夜というよりは、紅魔館のメイドとして日常を過ごす十六夜咲夜をイメージしていると考えられる。『インパーフェクトメイド』には『月時計 ~ ルナ・ダイアル』のメロディーも含まれているが、原曲として表記されているのは『フラワリングナイト』のみであるため、イメージソースとしては『フラワリングナイト』の人間らしい十六夜咲夜になるのだろう。

『インパーフェクトメイド』には食器の割れる音や落とした時の音が大量に入っているため、紅魔館のメイド・十六夜咲夜が家事をしている様子を表現しているのだろうか。しかし、「完全で瀟洒なメイド」という二つ名を持つ彼女が家事の際に失敗して食器を割ったような描写は原作には登場しておらず、紅魔館の全ての家事を実質的に仕切っているとされる十六夜咲夜が大量の食器を割ったり落としたりするとは考えづらい。ちなみに香霖堂第四話と第五話『完全で瀟洒なティータイム』ではレミリアと咲夜によって霊夢のティーカップが割られていたが、これが十六夜咲夜による犯行とは判明しておらず、レミリアが咲夜に対して代わりのティーカップを手に入れる命令を出しているのでレミリアによる犯行と解釈する方が筋が通る。

アルバム『音』は「忘却」をテーマとした東方アレンジアルバムであり、幻想少女の忘れ去られた過去や思いを表現したアレンジ楽曲が主に収録されている。『インパーフェクトメイド』が十六夜咲夜の忘れ去られた過去なのであれば、それは「まだ彼女が幼く未熟で不完全なメイドだった頃」を表現しているのではないか。

だが、おそらく、それだけではない。そう思う理由は幻想郷に存在するメイドは十六夜咲夜だけではない事実、加えて『インパーフェクトメイド』に隠された原曲にある。

この記事では紅魔館の家事の現状を振り返った後、『インパーフェクトメイド』の解釈について述べていこうと思う。


◇紅魔館のメイド事情

東方Projectに登場するメイドは十六夜咲夜だけ、というわけではなく、咲夜と共に紅魔館で働く妖精メイドたちも存在している。前述の通り、完全で瀟洒なメイドである十六夜咲夜が不完全なメイドだった頃を表現しているとストレートに解釈する事もできるのだが、インパーフェクトの名が相応しいのは十六夜咲夜というよりは妖精メイドの方ではないかとも思える。考えを整理するために、これまで原作で描写されてきた紅魔館のメイド事情について振り返ってみよう。

紅魔館では清掃係兼メイド長を担当していて、常に時間を止める能力を活かして仕事をしています。(時間止めて掃除をすると埃が舞わないとか)
この家の主人がアレなので、実質、メイドというか子守り役というか、この家を仕切っています。

―東方紅魔郷 おまけ.txt より引用

十六夜咲夜は清掃係兼メイド長を担当し、紅魔館を仕切っている。館が大きく、主人がアレなので紅魔館にメイドは必要不可欠な存在といえるのだろう。そのメイドの長が十六夜咲夜である。これは基本中の基本知識。

紅魔館のメイドは、質より量の信念で、大量の妖精を雇い何とか賄っている。
その中で唯一の人間の彼女がメイド長として、妖精メイドに指示を出している。
妖精メイドは殆ど役に立っていない。
精々自分達の服の洗濯と自分達の食事を作る事で精一杯である(*3)。

―東方求聞史紀 十六夜咲夜の項より引用

阿求によると、紅魔館は大量の妖精を雇ってメイドとして働かせているようだが、殆ど役に立っていないらしい。東方緋想天ではアリス・マーガトロイドも同じく「貴方の処の役に立たないメイド達とは訳が違うのよ」と咲夜に向けてマウント発言しており、妖精メイドが役に立っていないのは共通認識なのだろう。

儚月抄第十話ではパチュリーの指示に従って書物を運ぶ妖精メイドが見られるが、月に向かう際に念のため妖精メイドを三匹連れていく事に対し「何の役に立つんだか」と霊夢が発言しており、第十三話において圧倒的に実戦経験不足かつ弾幕ごっこ初体験と思われる玉兎にさえ全敗した等、実際あまり役に立っていなかった。

侵入者撃退のための弾幕ごっこの腕は所詮妖精なのだろうが、家事の面ではどういった描写がなされているか。東方三月精 ~ Strange and Bright Nature Deity 第一話では窓の拭き掃除をしながら雑談している様子や料理を運んでパーティーの準備をする様子が見られ、咲夜によれば演奏会もできるらしく、評価とは裏腹に意外と仕事をしている。しかし、最近になってメイド長・十六夜咲夜自身の言葉で妖精メイドに対する評価が語られていた。

料理を作るのは大変でも楽しい物です
だから妖精メイドでも出来ます積極的にやってくれます
しかし後片付けは必要だけど楽しくない物です
妖精達は楽しくないことはやってくれないのですからね

―東方智霊奇伝 第三話後編 十六夜咲夜のセリフより引用

つまり、妖精メイドは汚れた食器を運んで洗う等の後片付けに類する仕事は積極的にはしてくれず、メイド長である咲夜が指示しなければいけないらしい。

妖精メイドについてまとめると、料理や掃除といった家事が全くできないというわけではなく、家事の腕は不明だが咲夜が指示すれば仕事してくれる程度ということになる。複数の第三者から「役立たず」と評価されている事を考えれば、家事の腕もあまり期待できないだろう。

紅魔館にメイド妖精の採用試験があるのかは不明だが、描写としては妖精メイドはただメイド服を着ただけの能力的に普通の妖精と変わりない存在なのではないだろうか。東方文果真報では妖精メイドの募集広告が掲載されているが、経験者優遇とはあるものの特に採用条件が書かれているわけではないようだ。求聞史紀の「質より量の信念」という阿求の記述も合わせると、青田買いのような採用方法と考えられるため、妖精の質もそこら中に居る妖精と能力的に変わりないと見るのが妥当か。

その代わり、メイド長の仕事は過酷である。
迷路の様な紅魔館の掃除、我儘を言うお嬢様の世話、役立たずの妖精メイドの管理、人間の里に買い出し、無駄に豪華な料理を調理と、休む暇は無い。
これだけの仕事量を一人でこなすには、時間でも止めないと到底無理である。

―東方求聞史紀 十六夜咲夜の項より引用

大量にいる妖精メイドの質が低く役に立たないとなると、その分メイド長の仕事は過酷なものとなる。十六夜咲夜と妖精メイド以外にもメイドが存在する可能性も考えられるが、今のところ原作の記述もなく描写もないため、この記事では考えないでおこうと思う。ホフゴブリンは?←ホフさんはメイドではない!

タイトルの意味する「不完全なメイド」はどのメイドを指すのだろうか。「インパーフェクト」の名はまだ不完全だった頃の十六夜咲夜とも考えられるし、妖精メイドもその名にふさわしいと思えてくる。

次の項からは本題である『インパーフェクトメイド』の解釈を考えてみよう。


◇インパーフェクトなのは誰か

ストレートに解釈するのであれば、『フラワリングナイト』を原曲としているため、当然十六夜咲夜をイメージしたアレンジ楽曲であると思われるが、気になるのは記述されていない隠れた原曲にある。再生時間1:42辺りで流れる『妖精大戦争 ~ Fairy Wars』が聴き取れる。これをどう解釈するか。

三面ボスのテーマです。
一応ラスボス戦ですが、すぐに到達してしまうので曲の重さをどの位にするかが難しいところ。
いきなりMAXパワーでも疲れるので、序盤はゆっくり楽しげに、終盤はハイスピードで熱い感じにしました。
音色は妖精風だけど結構熱い曲です。

―妖精大戦争MUSIC『妖精大戦争 ~ Fairy Wars』より引用

TH10.5妖精大戦争における三面ボスとは光の三妖精(サニーミルク、スターサファイア、ルナチャイルド)の事である。紅魔館に住んでいるわけでもない三妖精がなぜ『インパーフェクトメイド』に登場するのだろうか。この唐突に流れた『妖精大戦争 ~ Fairy Wars』のメロディーに何の意味があるのかを解釈してみると以下の2つが考えられる。

①紅魔館に侵入した三妖精の様子をイメージした選曲とする説
 三月精SBN第一話の通り、そのまま原作にある描写として三妖精が紅魔館に忍び込んでいる様子を表現しており、時系列で考えれば本編中であるため不完全な十六夜咲夜ではなくパーフェクトな十六夜咲夜という事になる。もしかするとこの原曲が流れている間は三妖精のイタズラによって食器が割られているという事なのだろうか。イタズラであるならなんとなく食器だけでなく窓ガラスも割ってそうな気がする。一応、三妖精が食器を割ったり落としたりする描写はないが、奴らならやりかねない。

②妖精メイドのイメージとした選曲とする説
 妖精メイドが雇われ始めて食器を割ったり落としたりしている様子を「大戦争」という比喩的な意味合いでこの原曲を使用したとする考えである。一応、妖精メイドが食器を割ったり落としたりしている様子は原作の描写で確認できないが、メイドとはいえ能力的には普通の妖精と変わらない事は描写として明確であるため、食器を割る事も落とす事もあるのだろう。

この2つの解釈に共通する事項としては時系列が進んでいる事にある。『インパーフェクトメイド』は、中盤に『妖精大戦争 ~ Fairy Wars』のメロディーが流れる事によって楽曲展開が変化しており、刻々と時系列が進んでいるような印象を受ける。つまり、『インパーフェクトメイド』は再生時間と共に進む時系列があるのではないか。

『妖精大戦争 ~ Fairy Wars』のメロディーが流れている最中は三妖精あるいはメイド妖精が食器を割っていると考えられるが、このメロディーが流れる前や後は誰が食器を割っているだろうか。解釈①(三妖精説)を採用する場合、メロディーの前と後はメイド妖精が割っているとも考えられるが、それだと咲夜が『インパーフェクトメイド』に登場せず、原曲『フラワリングナイト』や明記されていない原曲『月時計 ~ ルナ・ダイアル』の説明がつかなくなる。

そこで出てくるのがテーマ「忘却」。概要でも述べた通り、忘却された過去のインパーフェクトな咲夜が食器を割っているとする解釈だ。つまり、『妖精大戦争 ~ Fairy Wars』のメロディーが流れる前と後は咲夜が割っているとも考えられるという事だ。あるいは三妖精あるいはメイド妖精が紅魔館に現れただけで食器は割っておらず、『妖精大戦争 ~ Fairy Wars』のメロディーが流れている間も含め、食器を割っている人物は全てインパーフェクトな咲夜という解釈もあるか。

ただ、再生時間と共に時系列が進んでいるとなると『妖精大戦争 ~ Fairy Wars』が流れた後の字時系列は、既に咲夜は成長していてパーフェクトメイドとなった彼女が食器を割っているとは考えづらいとも思える。解釈①(三妖精説)を採用する場合は特にそう思えるのだが、解釈②(メイド妖精説)を採用する場合は『妖精大戦争 ~ Fairy Wars』が流れた瞬間を「咲夜がメイド長として完璧に成長し、メイド妖精を雇い始めた段階」と解釈する場合であれば、後半もメイド妖精が割っていると考えられるだろう。

ほぼ確定している事としては「楽曲中に咲夜が登場している事」、「中盤で妖精が登場している事」、「不完全なメイドは未熟な頃の咲夜あるいはメイド妖精である事」が言える。時系列も踏まえて解釈を整理していくと、以下のようになる。

A.楽曲前半はまだメイドとして未熟な咲夜が食器を割っており、中盤以降からは咲夜がメイド長として成長したが、妖精メイドが雇われ始めて咲夜の代わりに食器を割るようになった。

B.楽曲前半はまだメイドとして未熟な咲夜が食器を割っており、中盤以降からは咲夜がメイド長として成長したが、イタズラ好きの三妖精が紅魔館に侵入するようになり、食器や窓ガラス等が割られる事が増えた。

C.楽曲前半はまだメイドとして未熟な咲夜が食器を割っており、中盤以降からは咲夜がメイド長として成長したが、妖精メイドが雇われ始めて咲夜の代わりに食器を割るようになった。また同じタイミングでイタズラ好きの三妖精が紅魔館に侵入して妖精たちの大戦争に。つまり、AとBの混合説。

D.全編通してメイドとして未熟な咲夜が食器を割っている。中盤で三妖精あるいは妖精メイドが登場しているだけで、妖精らが食器を割っているわけではない。時系列はあくまで咲夜がパーフェクトメイドに成長しない程度の経過速度である。

私としてはAかCが妥当だと思っている。Bの場合は、紅魔館の住民が三妖精にやられっぱなしにはならないと思うので、Cのように妖精メイドとドンパチやってる方がまだ分かるのではないか。また、以上の解釈は『インパーフェクトメイド』最後の音を考慮していないため、この最後の音をどう捉えるかによってはDではないと考えている。

『インパーフェクトメイド』最後の音はドサッと何者かが倒れこむような音に続いてパリーンと皿が割れる音となっている。この音を、重労働に過労したメイド長が仕事中に倒れた音なのか、もしくは年老いてもなお仕事を続けていたメイド長が寿命を迎えて倒れた音なのかどうかの2択が考えられるのではないか。

解釈Dを前提に過労により倒れたと解釈する場合は、紅魔館のブラックな環境を揶揄したような楽曲になってしまうが、時を操る程度の能力を持つ咲夜はその能力を活かして時を止めている間に休息をとっている描写が永夜抄夢幻の妖魔チームBADENDにて確認でき、時を止めて休んでいるなら急に皿を落として過労で倒れる可能性は低いと思われる。(過労で精神がやられていてもうダメになってしまった十六夜咲夜という考え方もあるかもしれないが)

後者の寿命で倒れた説だとすれば時系列の進みが矛盾するため、解釈Dとは同居不可になる。

以上によって、AかCの解釈が妥当ではないかと私は考えている。


◇雑記

レミリア「そう、咲夜も不老不死になってみない?そうすればずっと一緒に居られるよ。」
咲夜「私は一生死ぬ人間ですよ。大丈夫、生きている間は一緒に居ますから。」

―東方永夜抄 Extra 夢幻の妖魔チームのセリフより引用

上記、十六夜咲夜のセリフから、人間として紅魔館に永久就職してお嬢様に仕えるつもりである事が読み取れる。このセリフの宣言通りの未来が訪れるのであれば、やはり『インパーフェクトメイド』の最後の音は寿命を迎えた彼女が倒れた音なのではないだろうか。

そう考えるとテーマ「忘却」の要素がまた違って見えてくるように思える。寿命を迎えるほどに年老いてしまった十六夜咲夜が最期には自信の人生のすべてを忘れて楽になった、というように。もしかすると『インパーフェクトメイド』は十六夜咲夜の走馬灯のようなものなのではないかと思え、年老いた彼女もまたインパーフェクトメイドと言えるのではないか。

原作においては、まだパーフェクトメイドである十六夜咲夜にはインパーフェクトな時期が過去に存在して、またこれからインパーフェクトになっていく未来もあるかもしれない、と妄想が可能なこの楽曲を聴いていて、なんとなく思う事がある。

それは「十六夜咲夜」という名前に込められた意味についてだ。彼女の名前は躊躇いの月と言われる「十六夜の月」の「昨夜」は「十五夜の月」、つまり満月を表しているのではないかという説がファンの間で囁かれている。満月とは完全、即ちパーフェクトな月であり、この命名は完全なメイドたる彼女の永遠性を謳っているかのようである。

『インパーフェクトメイド』が表現している彼女のインパーフェクトな過去と未来、時を経て進む彼女の人生はまるで月の満ち欠けのようではないか、と。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください