Featured in: 廻
track: 3
arrangement: RD-Sounds
lyrics: RD-Sounds
vocals: 紫月菜乃
original title: 少女綺想曲 ~ Dream Battle
length: 07:19
◇概要
RDWL-0004『廻』トラック3。タイトルは「万華鏡」を意味する英単語 ”kaleidoscope” からの命名で、この単語はそれ以外にも「絶えず変化するもの」という比喩的な意味合いも持っている。ちなみに、”kaleido” とはギリシャ語で「美」を意味する”κάλλος”(Kalos)と同じくギリシャ語で「姿・形」を意味する ”είδος”(Eidos)が合わさってできた混成語である。
ブックレットイラストおよび『少女綺想曲 ~ Dream Battle』を原曲としていることから博麗霊夢をイメージして制作されたアレンジと分かり、歌詞は第三者からの視点で博麗霊夢への思いを綴られたかのような内容になっている。「間」のルビ、「少し永く生き過ぎた私」という歌詞からか、博麗霊夢を見守るこの第三者を八雲紫とする解釈が主流となっているが・・・。
この記事では、「カレイドスコープ」と比喩される博麗霊夢についての復習と本楽曲の一人称の解釈について再考してみよう。
◇紅と白の万華鏡
タイトルの『カレイドスコープ』は歌詞中に綴られた「紅と白の万華鏡」、すなわち紅白の巫女さんである博麗霊夢を比喩として表現しているのだろう。
少女綺想曲のメロディーに乗せて歌われる「How many colors do you have?」のコーラスは博麗霊夢へ向けられた問いかけだろうか。アリス・マーガトロイド曰く「巫女は所詮二色」とのことだが、二色だけでは語れないほどに博麗霊夢は多彩な表情を持つ。「二色以上の彩を魅せてよ。」と零された言葉は、博麗霊夢の人間らしい部分を見ていたいという心情が伝わってくるかのようだ。
この項では、二色以上の彩を魅せる博麗霊夢を振り返ろうと思う。過去このブログで書いた『どうして・・・』の記事では博麗霊夢の性格について触れていたが、今回はちょっと違う角度で博麗霊夢の性格を分析する。
博麗霊夢の感情表現の豊かさ。昨今の二次創作においても泣いたり笑ったりと感情的な博麗霊夢が描かれているわけだが、これは原作にしっかり記述されている事柄なのである。今回はその一端を復習する。
非常に単純な思考の持ち主で、怒る時は怒り、笑う時は笑う。
裏表のない性格は、人間妖怪問わず惹き付ける。―『東方萃夢想』Omake.txtより引用
まずは東方萃夢想、博麗霊夢は「怒る時は怒るし、笑う時は笑う」と書かれている。己の感情を正直に表現する単純な思考を持ち、裏表がない性格とのことだ。この博麗霊夢の「裏表がない性格」は東方萃夢想のストーリーにおいて大事な要素であり、EDの描写では嘘に敏感な伊吹萃香も博麗霊夢の事を気に入っているようだった。
幻想郷の境にある(恐らく)由緒正しき博麗神社の巫女さん。
感情的で騒々しく、どんな場所でも存在感があるのだが、すぐに馴染む。―『東方永夜抄』オンラインマニュアルより引用
感情的で騒々しい。確かに異変解決に向かう彼女は基本的に怒っている事が多く、会話もどこか騒々しい。小説抄の第一話にて、八意永琳は博麗霊夢に対して「この巫女は何処に行っても、まずは怒りから出た言葉で会話を始めようとする。」と評している。おこれいむはかわいい。
性格 : 呑気で感情豊か。浮世離れしている。
―『東方緋想天』公式ページより引用
博麗霊夢の紹介に「感情豊か」とはっきり書かれている。実際、東方茨歌仙や東方鈴奈庵を代表とする普段の彼女を描いた作品では、博麗霊夢はとても感情豊かであり、彼女の表情がころころと変化するその様は、正に「カレイドスコープ」と形容するに値する。
例えば、鈴奈庵第三十三話では秋の食べ物を思い浮かべ暢気な表情をしているかと思ったら小鈴からの相談を聞いて悩ましい表情を見せ、急に天狗に対して怒りを露わにする、などがある。霊夢の感情の豊かさを垣間見れる場面は他にも沢山あり、特に茨歌仙第三十四話の博麗霊夢は表情が豊かすぎて、もはやギャグの領域である。
『カレイドスコープ』のブックレットイラストでは、笑顔、怒った顔、泣き顔と万華鏡のように廻る彼女の表情が伺える。そんな彼女を「指と指の間」から覗く者が八雲紫であるとしたら、万華鏡の筒にあたる物は「スキマ」なのではないだろうか。
八雲紫が霊夢を見守る様子は原作でも垣間見ることができ、『東方求聞史紀』では神社の食べ物をこっそり盗んでいるのをやめてほしいと霊夢に言われていたり、東方三月精第23~25話『二つの世界』では大木の変化にいち早く気づき行動に移すなど、八雲紫は霊夢の行動をスキマからしょっちゅう覗いていると推測できる。
◇一人称考証
凋叶棕ではボーカリストをキャラクターに応じて揃える傾向にあり、例えば霧雨魔理沙ならばめらみぽっぷさんが起用されたり、昨今においては宇佐見蓮子および宇佐見菫子にnayutaさんが起用されたりしている。
『カレイドスコープ』のボーカルは紫月菜乃さんである。
同じくアルバム『廻』に収録されている『絶対的一方通行』の一人称は八雲紫であり、『カレイドスコープ』の一人称も八雲紫であるとしたならば、ボーカリストの違いが気になってくる。そう、『絶対的一方通行』のボーカルはめらみぽっぷさんなのだ。
当然、ボーカリストの声質と楽曲の相性も関係するかと思われるが、この「ボーカリストの違いをどう捉えるか」について、ちょっと頭をひねってみる。
アルバム『廻』においては紫月菜乃さんが宇佐見蓮子、めらみぽっぷさんがマエリベリー・ハーンである事は、「ねぇメリー」、「夢の話を聞かせてよ」、「止まない 胸の内のざわめき」といった歌詞から明白である。『絶対的一方通行』の記事において少し触れた通り、『廻』では「八雲紫≒メリー説」が採用されているのだとしたら、八雲紫の主観はめらみぽっぷさんとなるはず。
①.『カレイドスコープ』は博麗霊夢が主役だから紫月菜乃さんがボーカルである説。主観は八雲紫と考えられるがそこは想像の余地を残し、あえて誰が主観かではなく、誰が主役なのかを考えて紫月菜乃さんを抜擢しているのではないか。この説においては、他の二次創作において「八雲紫≒メリー説」と合わせて採用されることがある「蓮子が博麗の巫女に関係する人物説」も併せて妄想すると面白いかもしれない。八雲紫の博麗霊夢に対する思い入れは、かつての友人の面影を重ねているだけなのではないか・・・?そう考えると少し残酷である。
②.『カレイドスコープ』の主観は『絶対的一方通行』と同一の八雲紫ではない説。実は八雲紫は二人いる!?という考えではなく、大妖怪・八雲紫の内側にある人間らしい部分は宇佐見蓮子が素材となっているため、『カレイドスコープ』のボーカルは蓮子役の紫月菜乃さんという突拍子もない捉え方。凋叶棕において人間臭さを感じられる八雲紫は『カレイドスコープ』が代表的なので、そういう部分から考えてみた。そうなると八雲紫の妖怪部分はめらみぽっぷさんが担当になるか?
③.実は『カレイドスコープ』の主観は八雲紫ではなく霊夢だった説。「な、なんだってーー!!」と言いたくなるような王道の裏を返した解釈で正直なところ蓋然性は低いと思っているが、あの霊夢ちゃんがそんなこと考えているのかと思うとあざとくて可愛いし、面白いし、個人的にはあり。香霖堂第23話『うるおいの月』では、博麗霊夢が八雲紫の口調を真似するシーンがあり、とてもかわいい。なお、霊夢は口調だけでなく、卒塔婆や結界の技も真似ている。
以上、『カレイドスコープ』の一人称についての考証である。この記事での再考を通しても私はやはり八雲紫が主観だと思う。
◇合わせて聴きたい曲《喜怒哀楽編》
前述の通り、博麗霊夢は感情が豊かである。凋叶棕のアレンジ楽曲においても彼女の感情の豊かさは健在であり、同じ霊夢をイメージしたアレンジであるのにも関わらず雰囲気の落差は非常に激しく、そのバリエーションは豊富である。今回は感情《喜怒哀楽》という視点から凋叶棕による霊夢のアレンジ楽曲を紹介する。
▼なにいろ小径
『随』収録。『春色小径 ~ Colorful Path』のアレンジとなる。「らんらんららー♪」と鼻歌を歌う博麗霊夢の感情は ”喜” か、それとも ”楽” か。鈴奈庵・茨歌仙などで描かれる、普段の彼女はこんなにも女の子なのだ。
▼Un-Demystified Fantasy
『謡』収録、後にリアレンジされて『奉』へ再録。通称”ぶちぎれいむ”。霊夢の曲としては『二色蓮花蝶 ~ Red and White』のアレンジ。所謂、異変解決モードも彼女の多彩な感情の一面と言えるのかもしれない。感情は紛うことなく ”怒り”。
▼どうして・・・
『宴』収録。『少女綺想曲』、『永遠の巫女』、『春色小怪』のアレンジ。しおらしい霊夢。歌詞中の ”あなた” を思う愁いの感情が歌詞に綴られている。泣く子も黙る博麗霊夢だって泣く時は泣くし、悲しい時は悲しむ。具体的には神社を壊されたら霊夢は泣く。ちなみに泣いてる霊夢はアルバム『騙』で楽しむ事ができる。
▼the music I love
『奏』収録。『永遠の巫女』、『春色小径 ~ Colorful Path』、『少女綺想曲 ~ Dream Battle』のアレンジ。表記上は『どうして・・・』と同じ原曲となる。弾幕ごっこにいそしむ彼女はなんだか楽しそうである。感情は持続的な満足感、”楽” が相応しいか。また、『掲』収録のファースト&ラストトラックの博麗霊夢にも、”楽” に似た感情があるのではないか 。
◇ブックレット
笑顔、怒った顔、泣き顔といった二色以上の表情を魅せる博麗霊夢の写真が数枚散らばっており、写真だけでなく35mmフィルムも描かれている。そのフィルムからは八雲紫と博麗霊夢が何かやり取りしている様子が伺える。
アルバム『廻』のブックレットには写真が多く描かれており、テーマ「旅行」に相応しいデザインとなっている。その中でも『カレイドスコープ』は写真だけでなく、唯一フィルムもある。これらの写真の主はビデオに収めるほどに博麗霊夢を気に入っているのかもしれない。
ブックレットイラストは『綜纏Vol.2 二旅』に収録。写真が重なって見えなくなっていた部分も綜纏ならば見る事ができる。
◇雑記
ZUN氏による東方紫香花への寄稿小説『六十年ぶりに紫に香る花 』は八雲紫が一人称のストーリーとなっており、地の文にて八雲紫が内なる心情を吐露していた。
八雲紫は謎の多いミステリアスなキャラクターであることから、八雲紫の内面が描写された公式ソースは現在でも非常に貴重な代物であり、この小説においては、例えば「霊夢に信用されていない事が分かって少しへこむ八雲紫」という世にも珍しい八雲紫を見る事ができる。そして、この小説で「60年」について人間へ聞いて回る八雲紫が「憎らしいほど口下手」なのも笑いを誘う。東方非想天則で「よく判らない事言って判ってるフリしてるだけでしょ?」とチルノに指摘されるのも分からないでもない。
こういう口下手である面はなんとなく博麗霊夢と似ているとも思えてくるが、口下手といっても霊夢のそれとは若干種類は違うようにも思える。(しかし、博麗霊夢が年齢を重ねれば八雲紫のようになる気もしている・・・)
『廻』のテーマは「旅行」である。この楽曲に「旅行」の要素がないように見えるが、私はそうは思わない。廻るように表情を変える博麗霊夢、万華鏡をくるくると回す行為に対して、「めぐり」という言葉との共通点を見出すことができるだろうが、それだけでなく「旅行」の要素もあると踏んでいる。
『カレイドスコープ』の一人称を八雲紫とするならば、『廻』は「八雲紫≒メリー説」を採用しているとするならば、『A Secret Adventure』から始まったマエリベリー・ハーンの旅行は、まだ終わっていないのではないか。
バックインレイに描かれる、コルクボードにピン止めされた写真。これら全てマエリベリー・ハーンによる旅行写真といえるのではないか。