Cruel CRuEL

invisible moon


Featured in: 遙
track: 3
arrangement: RD-Sounds
lyrics: RD-Sounds
vocals: めらみぽっぷ
original title: 狂気の瞳 ~ Invisible Full Moon
length: 06:06


◇概要

『遙』収録のトラック3『Cruel CRuEL』。主役は ”うどんげ” でお馴染み、鈴仙・優曇華院・イナバ(以下、鈴仙と表記する)。

”Cruel” とは英語で ”残酷な~”、”冷酷な~” といった意味を持つ形容詞であり、”クルエル”(≒狂える)とも読めるようにも見えるが、実際の発音は”クルアル”に近い。また、”CRuEL” の小文字 ” u ” が膝を抱える鈴仙を表しているかのようで、大文字アルファベットはそんな彼女を取り囲むかつての仲間のようにも見えてしまう。

その兎が言うには、「月に敵が攻め込んで来てもう生活出来なくなった、そいつらは月に自分達の旗を立て、自分達の物だと言って好き勝手やっている」、らしい。 兎は月の民が戦っている中、仲間を見捨てて命からがら逃げてきたという事だった。

ー『東方永夜抄』キャラ設定.txtより引用

永夜抄時点における鈴仙の設定は「月に攻め込んだ人間との戦争から逃げ出した脱走兵」であり、歌詞で語られる内容から察するに、本楽曲の鈴仙はこの設定を元にしているようだ。

本記事では、鈴仙の犯した罪をおさらいし、原作ごとの精神面の変異から『Cruel CRuEL』の落としどころを考えていく。


◇月面戦争と鈴仙

この項では『東方儚月抄 ~ Cage in Lunatic Runagate』第1話において鈴仙が逃げ出してきたとされる「月面戦争」についておさらいする。

『Cruel CRuEL』の鈴仙は過去のトラウマからくる幻覚・幻聴といった、まるでPTSD(心的外傷後ストレス障害:Post Traumatic Stress Disorder)のような症状を患っている。その症状の原因は「月面戦争」にあるのではないか?

まずは東方永夜抄~東方花映塚の間における鈴仙の過去を振り返ってみよう。

貴方は大きな罪を負っている。
仲間を見捨て、見殺しにし、貴方は一人だけのほほんと暮らしている。
そう、貴方は少し自分勝手過ぎる。

―『東方花映塚』四季映姫・ヤマザナドゥのセリフより引用

罪人の過去の行いを映し出す裁判道具「浄玻璃の鏡」を持つ四季映姫によれば、鈴仙は仲間を見捨てた過去があるという。

これは本記事の概要にて引用した永夜抄のキャラ設定.txtにおいても同様の内容が記述されており、おそらく「人間との戦争中に鈴仙が仲間を見捨てて逃げ出した」という過去設定は東方永夜抄~東方花映塚の頃で共通しているのだろう。

東方永夜抄STAGE5の「月に来た人間を狂わせた催眠術。あの人間は弱かったわ。」という鈴仙のセリフから察するに、鈴仙は月に攻めてきた人間と交戦しているようだ。PTSDは外傷体験が起因しているケースが多いため、月に攻めてきた人間との交戦および外傷体験をきっかけに発症したという解釈も可能だろう。「人間は弱かった」と発言しているのはやや気になるが、後述する鈴仙の性格を踏まえると永夜抄5面では普段の精神状態ではなかったのかもしれない。

しかし、花映塚以降の作品ではある部分に相違点が見られる。

レイセンとは先の戦争が始まる前に逃げ出した兎である。
(中略)
実戦の前に任務を放棄し地上に逃げてしまったのだ。

―『東方儚月抄 ~ Cage in Lunatic Runagate』第3話より引用

小説版東方儚月抄の綿月姉妹の会話の中では、戦争が始まる前に逃げ出していた事になっており、鈴仙は人間と交戦しなかったどころか、月面戦争にすら参加していなかったことになる。おやおや、話が食い違っているではないか。この相違点をいかに解釈するか。

「鈴仙は月面戦争に参加していた」という情報のソースである「永夜抄キャラ設定.txt」と「永夜抄5面の会話」はどちらも鈴仙本人からの申告となるため、鈴仙は嘘をついていたとも考えられるだろうか。

花映塚で四季映姫が語った鈴仙の罪の内容は「仲間を見捨てた/見殺しにした」という部分のみで鈴仙が月面戦争に参加して人間と交戦したかどうかについては触れられておらず、仮に「戦争が始まる前に逃げた」としても仲間を見捨てた裏切り行為にはなるだろう。

今現在、『Cruel CRuEL』の落としどころを考えるにあたっては「どの時期の鈴仙を元にしているか」が重要になる。例えば、永夜抄時点でスライスした世界の鈴仙ならば「月面戦争の体験からPTSDを患った哀れな脱走兵」という事になるが、次の項でもう少し深堀する。


◇玉兎通信の影響

そんなある満月の夜、月の兎同士が使うという兎の波動を鈴仙が受信した。これは、どんなに離れていてもその大きな耳で会話が出来るという月の兎の特殊能力である。

 ―『東方永夜抄』キャラ設定.txtより引用

月の兎には「玉兎通信」と呼ばれる特殊な能力が備わっており、東方永夜抄においてもキャラ設定.txtにその特殊能力を使用した描写がなされていた。実はこの玉兎通信の設定、風の噂程度だったり会話ができたりと意思疎通の程度が曖昧ではあるが、その点はとりあえず置いておく。

永夜異変前、鈴仙はかつての仲間からのメッセージを受信していたことになるが、『Cruel CRuel』を考える上でこれをどう解釈するか。

鈴仙が受け取ったメッセージは「戦力は我々の方が若干不利に見える」、「誇り高き我々と一緒に戦ってくれないだろうか」、「次の満月の夜にレイセンを迎えに行く。抵抗しても無駄だ。」という応援要請どころか赤紙のごとき強制的な内容であり、鈴仙にとっては「お前が逃げ出した戦場に再び戻れ」という恐ろしいメッセージになる。加えて、月側が押されているとなると猶更、鈴仙にとっては辛いものがあるだろう。

結果、永琳の策により月と地上を分断され、最終的に鈴仙はその要請に応じることはなかったわけだが、このメッセージが鈴仙にとってトラウマを加速させるものだったと解釈することもできるのではないか?『Cruel CRuEL』の歌詞中には月からの怨嗟と怒りの声(波長)を受信している鈴仙が描写されていることもあり、玉兎通信によるトラウマの加速もあったと考えられるだろうか。

少しだけ補足。永夜異変前に鈴仙が受けたメッセージでは「月面戦争は月側が不利」となっていたわけだが、儚月抄では「月面戦争は人間の惨敗」だったことを鈴仙たちは知っていた事になっている。永夜抄キャラ設定.txtには「月が結局どうなったのかは、地上に這いつくばって暮らす民である輝夜達には知る由もなかった。」とあるため、永夜抄から儚月抄までの期間で月面戦争の結果について情報を得た、という事になるだろう。

もしかすると永夜異変前に鈴仙が受信したあのメッセージは玉兎達のイタズラで、本当はデマだったのかもしれない。


◇鈴仙の精神面変移

月面戦争についての話は一旦終了し、この項では鈴仙の精神面について振り返る。

レイセンは能力的には高かった。簡単に姿を消し、人の心を乱すことが出来た。
だが、性格は臆病で自分勝手であった。その性格は戦闘時は致命的であると予想は出来たが、矯正は出来なかった。

―『東方儚月抄 ~ Cage in Lunatic Runagate』第3話より引用

綿月依姫によれば、月に居た頃の鈴仙は優秀ではあるものの性格は臆病で自分勝手であり、その性格ゆえに協調性が低く、結果任務放棄して戦争から逃げ出すに至っていたとのことだ。これは元上司からの評価となる。他にも、花映塚では四季映姫からは「自分勝手すぎる」と評されており、やはり他者からは性格に難があるという評価をされているようだ。

そんな臆病な彼女だが、東方永夜抄では八意永琳からの言いつけを守り、自機の面々としっかり戦闘している。「戦闘時は致命的」と評されるほどの臆病な性格だったはずではないのか。しかし、東方緋想天ではこういった記述がある。

 性格:狂気と暢気の持ち主。戦闘とそれ以外の性格が異なる。
元々、地上の生き物では無いため、人間と合わせる事は少ない。全て自分の都合で性格を変える。決して優しい性格ではないが、時には霊夢並みに惚けた一面を見せる。

―『東方緋想天』omake.txtより引用

「戦闘とそれ以外では性格が異なる」、つまりは戦闘時である永夜抄5面の鈴仙は通常時の性格とは異なったものとなる。永夜抄5面における鈴仙の精神状態が普段の臆病なものとは違っていたのだとすれば、前述の「人間は弱かった」というセリフも腑に落ちる解釈ができるだろう。

次に、東方緋想天のシステム「気質」から鈴仙の精神面を考える。東方緋想天/非想天則における鈴仙の気質は「清蘭」・・・ではなく「晴嵐」だ。これは「晴れた日に吹く強い山風」を指す天気となる。

風は心のバランスが悪い者に現れる気質。
相手によって態度を変えたりする幽霊だな。
世渡りが上手ではあるが、反面心の病にも冒されやすい
しかし、お前さんの空は晴れている。迷いは特に無いという訳か。

―『東方緋想天』小野塚小町のセリフより引用

小野塚小町のセリフによれば「晴嵐」の気質の持ち主は世渡り上手である反面心が病みやすいらしい。「心の病」といえば、『Cruel CRuEL』の鈴仙もPTSDにも似た心の病に冒されているように思える。しかし、「迷いは特に無い」とあるため、この時点では既に過去のトラウマを乗り越えていたのかもしれない。

その後、東方紺珠伝ではかつての仲間と再会し、吹っ切れた様子を見せるようになっていた。比那名居天子からは「懐と安とは実に名を敗る」と評されていたが、精神面はしっかり成長できていたのかもしれない。(鈴奈庵第二十一話では若干調子に乗っていたが)

月面戦争、玉兎通信、鈴仙の精神面について振り返った結果、本楽曲における鈴仙は永夜抄~花映塚付近の設定・時系列が反映されているという解釈が現在の『Cruel CRuEL』の落としどころとして良いのではないかと私は思う。


◇ブックレット

場所は竹林。大きな満月を前に地に膝を付ける鈴仙。満月は鈴仙の影を草むらに映すほどに爛々と光輝いている。この満月を見つめていると、頭から肩にかけての輪郭、目と口、垂れた耳、クレーターの模様が儚月抄で描かれたレイセンのように錯覚してしまう。

後ろからなのではっきりは分からないが、鈴仙の目から紅い閃光が漏れているのは月の仲間からの通信を受信している様子を描いているのだろうか。あと、鈴仙の絶対領域も見どころである。

歌詞の配置は比較的スタンダードだが、「そのまま罪の意識に苛さいなまれ続けるがいい!」の演出には鈴仙の弾幕の特徴がうまく反映されている。

イラストは『綜纏Vol.1』に収録。構図が違う没絵も収録されており、コメントでは満月の秘密が語られている。


◇雑記

永夜抄頒布から15年経った今、現在では多くの設定が更新され、時の進みに合わせてキャラクターのバックボーンもどんどん変異していっている。当然、これは鈴仙だけの話ではない。

「東方の設定は、世界設定は妖々夢のストーリーにかかれているものが最新です」という妖々夢が最新作だった当時のZUN氏の発言が影響したか定かではないが、設定に矛盾が生じた場合は最新の設定を採用する文化が2000年代の頃から長く見られている。そのため、二次創作にはその時の最新の設定が反映されている場合が多いため、例えば永夜抄時点の設定を元に制作された二次創作などは昨今ではなかなか発生しにくい。

しかし、私個人の願望としては「(最新の設定で否定されているが)原作のこの記述・設定を前提とした二次創作」といった作品も見てみたい気持ち(というか好奇心)もあるのだ。もちろん、『Cruel CRuEL』がそういった作品に該当するとは限らないわけだが。

この記事で挙げた「永夜抄~花映塚付近の設定を前提としている説」以外の解釈も当然あり、例えば、花映塚の四季映姫ストーリーにおいて「ふぅ、貴方は罪の念を持ち続けて生きるしかなさそうね……」という鈴仙に対するセリフがあり、この映姫のセリフ通りの未来になったとしたら?というifとして解釈できるかもしれない。この場合、『遙』の楽曲は時系列順に並んでいる説とも同居が可能となる。(トラック1『ささぐうた -ヒガン・ルトゥール・シンフォニー-』で霧雨魔理沙が星になっているので。)

・・・あ、そういえば「罪の意識も薄らぐだろう」って。”だろう” どころか本当に薄らいでないか?最近のうどんちゃん。ねぇ?

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