Featured in: 屠
track: V
arrangement: RD-Sounds
original title: 真夜中のフェアリーダンス
length: 04:28
◇概要
”恐怖”をテーマに制作されたアルバム『屠』収録のインスト楽曲。表記上ではV曲目、実際の収録順では6曲目、ボーナストラックを合わせるならば7曲目となる。
インスト楽曲の背景を察するにあたっては、”タイトルに含まれた意味”と”アレンジ元となる原曲”の2面で考えるのがセオリーである。まずはここから考えてみよう。
“supernatural”とは”超自然的な”、”神秘的な”、といった意味を持つ単語である。東方Projectのファンからすると、”supernatural”といえば「東方妖々夢』の独自システム『森羅結界』(Supernatural Border)が印象深い。
”supernatural”の単語選びは、森羅万象の権化”妖精”を表していると解釈しようと思う。『真夜中のフェアリーダンス』を原曲としている点も加味するとこの解釈の蓋然性は高いだろう。
原曲『真夜中のフェアリーダンス』は東方Project 12.8弾『妖精大戦争 ~ 東方三月精』の三面テーマとして収録されている。この原曲について、MUSIC ROOMのZUN氏によるコメントを以下に引用する。
三面のテーマです。
ちょっとだけジャズィでアダルティなメロディにしました。
夜といえば大人の時間。もしくは妖怪の時間。
よい子はおねむの時間、夜更かしすると妖怪が出ますよ。
もしくは大人が出ます。そりゃもう出ます。―『妖精大戦争 ~ 東方三月精』MUSIC ROOMより引用
『Supernatural Encounter』も同様、どことなくジャズィでアダルティな音使いであり、静かに鳴るピアノからは真夜中の静寂を感じさせられる。
この楽曲における恐怖は真夜中に妖怪や妖精など得体のしれない者(Supernatural)と遭遇(Encount)する恐怖。さらに”Encount”に接尾語”-er”がついているため、この楽曲の主観は”遭遇した側”と解釈できる。
タイトルと原曲から楽曲のコンセプトはなんとなく理解できただろうか。
だが、これだけでは終わらないのが凋叶棕。
”他のアレンジ楽曲との関連性”、”もうひとつのモチーフ”の2点について、もう少し深堀していく。
◇すーぱーなちゅらるお兄さん
凋叶棕ファンならば真っ先に思いつくのが、『Supernatural Encounter』と同じく、『妖精大戦争 ~ 東方三月精』の原曲をアレンジされている『すーぱーなちゅらるとりっくわーくす』(略してSNTW)との関連性である。
”すーぱーなちゅらる”の名を冠する楽曲同士、きっと何かあるはずだ。
『SNTW』の内容は、とある”お兄さん”を標的に『サニーミルク』、『スターサファイア』、『ルナチャイルド』の三妖精がイタズラを仕掛ける、というもの。
『東方三月精 〜 Oriental Sacred Place.』の 最終話『空飛ぶ不思議な巫女』では、屋根から落ちてくる雪に刃物や爆弾を混ぜるといった凶悪なイタズラをしていた。『SNTW』でも同様に凶悪なイタズラを仕掛け、お兄さんを一回休みにしている。
お兄さんが三月精に”Encount”したと仮定するなら、『SNTW』を『Supernatural Encounter』の裏側として解釈することができるだろう。
『SNTW』は始終かわいらしく明るい曲調を保っているのだが、『Supernatural Encounter』は静かで落ち着いた曲調となっている。おそらくこの違いは楽曲の主観が『イタズラを仕掛ける側』か『イタズラをされる側』の違いにあると思われる。
『イタズラを仕掛ける側』は光の三月精であるわけだが、彼女らの中に音に関係する能力を持つ妖精がいる。周りの音を消す程度の能力を持つ『ルナチャイルド』だ。
彼女の能力により三人がワイワイはしゃいでいてもお兄さんに気付かれることはなく、『イタズラをされる側』のお兄さんにとっては静寂な夜でしかない。静かな『Supernatural Encounter』の裏で三月精が騒いでいると思い馳せながらこの楽曲を聴くとまた違った印象を抱くことだろう。(※ただし、曲中が真夜中であるかどうかはハッキリしてはいない。)
さて、この楽曲のお話はお兄さんが妖精にイタズラされて終わりかといえば、そういうわけでもないらしい。
前述の通り、『Supernatural Encounter』と『すーぱーなちゅらるとりっくわーくす』の裏と表のような関係で同時進行していたとするならば、『屠』のV曲目の終わりでお兄さんは一回休みになっているはず。
一回休みになったお兄さんは妖精のように復活するのか、と問われれば答えはNO。お兄さんは人間であり、蓬莱の薬を飲んでいる、もしくは妖精のお兄さんでもない限りは復活することはない。
『東方花映塚』におけるチルノに対する四季映姫のセリフから”一回休み”とはまた違った妖精の死の概念(≒消滅?)を匂わせるセリフがあるため、妖精にとっての死の概念は”一回休み”とイコールというわけでもないかもしれない。しかし、『SNTW』のブックレットでお兄さんは死んでいるようなイラストになっているので、この一連の楽曲内において一回休み=死と捉えて問題はない。
死んだお兄さんは死体のまま復活せず、そして、V. 『Supernatural Encounter』の次の楽曲はVI. 『from the corpse to the journey』だ。
お兄さんの死体をお燐が持っていかないはずはない。
お兄さんが怪我をしているという点も『SNTW』の末期を考えれば、物語が続きになっていると考えても無理はない。
にしても、このお兄さん。天然で警戒心が足りないのか、求聞史紀を読んでない幻想郷素人なのかは分からないがかなりの不用心だ。『from the corpse to the journey』にて、お燐に指摘されるまで自分が死んだことに気が付いていない点を考えるとおそらくは前者なのだろう。
◇蓬莱人形のモチーフ
『屠』は”恐怖”をテーマとした楽曲を収録しているが、それとは別のもう一つの顔を持つ。
『蓬莱人形 ~ Dolls in Pseudo Paradise』のモチーフだ。
『屠』収録の楽曲のすべてがそうというわけではないが、やんわりとそのモチーフを汲み取ることができる。
例えば、
XI. 『too late for』とXII. 『げんきになったときのうた』に見られる毒の要素、
III. 『幽明境を分かつこと』の桜の花と3. 『桜花之恋塚 ~ Japanese Flower』、
IV. 『ブラックロータス』の蓮の花と2. 『二色蓮花蝶 ~ Red And White』、
IX. 『怪奇!人形の館 迷い込んだ男の運命は…』と8. 『人形の森』、
など、はっきりとはしない程度ではあるが、『蓬莱人形』の楽曲と共通したモチーフがあるように見える。(※ただ、『蓬莱人形』と『屠』で関係のありそうな楽曲同士の曲番号が一致していない点は気になるが・・・)
要するに『Supernatural Encounter』にもそういった蓬莱人形的要素があるのではないか、と考えた。
まず、『Supernatural Encounter』から要素を抜き出す。
①妖精のイタズラ
②真夜中のフェアリーダンス
③警戒心が足りてないお兄さん
④外傷(爆弾+刃物?)による死
ただし、③と④は『SNTW』の要素となる。これらの要素と近いものが蓬莱人形にあるかどうかを見ていく。
パッと見た感じでは、蓬莱人形では初版・プレス版共に妖精は登場しないようだ。登場する種族としては人間、妖怪、巫女、鳥人間、ピエロくらいだ。①の要素はない、といえるだろうか?
妖精の線がないならお兄さんに着目する。お兄さんの死因は『SNTW』のブックレットを見るに首吊りでも毒死でもなく外傷による死だ。初版蓬莱人形で死因が外傷であるのは、『最も好奇心の強い僕』、『最も幼い僕』、『最も聡明な僕』、『最も警戒心の強い僕』の4人。
このお兄さんは前述の通り警戒心が足りてないので、『最も好奇心の強い僕』、『最も幼い僕』、『最も聡明な僕』の3人に絞れるだろうか。
お兄さんが死んだのは森などの建物の外だと思われる。”脱出”というワードから『最も聡明な僕』が死んだのは建物内だと思われるため除外。
残るは『最も好奇心の強い僕』と『最も幼い僕』の2人。
『最も好奇心の強い僕』が殺された場所は森の奥で確定。時間は不明であり夜かどうかはわからない。
『最も幼い僕』が殺された時間は夜で確定。場所は不明だが、抜け出した、暗闇、という単語からおそらく夜の建物の外、もしくは建物内で暗い場所もありえるがやはり詳細は掴めない。
正直、どっちもありえる!(なんじゃそりゃ
そもそも、真夜中に一人歩いているようなシチュエーションに蓬莱人形らしさがある気はする!
だが、これではなんだか腑に落ちない。
ここで、もう一度、『Supernatural Encounter』を聴いてみる。
…………………………………………………………っ!
あっ
赤子の声…!
いやいや…
これはただ妖精の笑い声を意識されているだけだろう?
だが、赤子の声となると『最も幼い僕』の要素なのか…?
お兄さんなのに…?(´・ω・`)
………
……
…
はい。
かなーり強引ではあるが、蓬莱人形らしさのようなものを感じるという事を言いたかった!
やはり、インストのこーさつはハイコンテクストでむつかしい。
今回はここにて投了!
◇雑記
結論、夜の幻想郷は用心して歩きましょう。
妖精だから、といって侮ってはいけない。
イタズラに何度も付き合ってしまうと、やつらはどんどんエスカレートする。
求聞史紀にも危険度は低いと書いてはあるが、危険なイタズラに注意せよともある。
夜の幻想郷はとっても危険!
…
蓬莱人形という作品はいつもの幻想郷とはまた違った一面を垣間見ることのできる貴重な代物だ。
美しき楽園は外から来たよそ者にとって、とても恐ろしい場所に見えてしまうのかもしれない。
そもそも、このすーぱーなちゅらるなお兄さんは何も知らない外来人だった可能性も否定できない。
そう考えるとお兄さんと正直者達の境遇に似たものを感じられるのではないか?