Featured in: 宴
track: 2
arrangement: RD-Sounds
lyrics: RD-Sounds
vocals: めらみぽっぷ
original title: 少女綺想曲/永遠の巫女/春色小怪
length: 06:13
◇概要
『宴』収録のトラック2。かの名曲、『幻想浪漫綺行(Another Sky Remix)』に続く曲となる。
博麗霊夢のテーマ曲にあたる『少女綺想曲』と『春色小径』、霊夢の二つ名のひとつでもある『永遠の巫女』の3曲を原曲に、しっとりとしたアレンジがなされている。歌詞には”あなた”へ向けた博麗霊夢による心情の吐露がセンチに綴られており、原作で見られるような博麗霊夢とはまた違った印象を受ける。
本記事では「歌詞中の”あなた”という存在が博麗霊夢に与えた影響とは?」という部分について着目したい。
博麗霊夢の性格を振り返りつつ、『どうして・・・』という楽曲を整理していきたいと思う。
◇博麗霊夢の性格
『どうして・・・』における博麗霊夢は原作や書籍で描かれるものとは、やや異なる表情をしているようだ。考えを整理するあたって、まずは霊夢の性格について、原作のおまけ.txtや公式書籍などから振り返るとする。
何者に対しても平等に見る性格は、妖怪の様な普段畏れられている者からも好かれる。
逆にいうと、誰に対しても仲間として見ない。
周りに沢山人間や妖怪が居たり、一緒に行動を行っても、常に自分一人である。
実は冷たい人間なのかも知れない。―『東方永夜抄』おまけ.txtより引用
上記は永夜抄のものだが、別の原作のおまけ.txtでも誰に対しても平等である部分が強調されている。一言で言えば、ドライな性格といったところだろうか。しかし、東方儚月抄では傷ついたレイセンを治療したり、東方三月精では妖精が神社に住まうことを許していたりなど、ドライとはいえ優しさと寛容さを持っているようだ。
他には次のような記述もみられる。
博麗神社の巫女さんで主人公。のんびりしてるようで、実にのんびりしてる。
非常に暢気で、危機感に欠ける。誰に対しても同じ様に接し、優しくも厳しくもない。
―『東方求聞史紀』博麗霊夢の項より引用
のんびり、暢気といった楽観的で物事に頓着しないといった性格である。東方紅魔郷1面の霊夢のセリフに”(←のんき)”と付けられているのも印象深い。
ZUN氏視点でも第三者視点(阿求)でも似た印象を抱いているため、外面的な性格の評価としての信憑性は高いといえるだろう。実際に東方茨歌仙ではそういった怠惰で暢気な霊夢の姿がしばしば描かれている。他にも、東方茨歌仙第五話の小野塚小町による霊夢への評価では邪念がなく素直で無邪気ともある。
以上に示した性格はいずれも他のキャラクターを通して見た霊夢の外面的な部分であるが、内面的な部分についてはどうだろうか。『どうして・・・』では霊夢主観であるが故、霊夢の内面に潜む思いや感情が主な要素となる。
しかし、霊夢の内面については謎が多く、内に秘めた思いや感情については原作や公式書籍でも地の文のよる描写が少ないのだ。
ならば、心が読める古明地さとりならば、博麗霊夢の内面を垣間見ることが叶うはず。東方地霊殿4面では霊夢の思考を読んださとりがそのままセリフとして返している。内容を掻い摘んでみると『警戒』『面倒』『倒す』というもので、さらには倒す理由についても考えていないのである。
これは、異変解決時には余計な事を考えないように自我を抑制している、または博麗の巫女に余計な事を考えさせないための仕組みが霊夢の思考へ介入している、の2通りが考えられる。
東方求聞史紀の記述にもある通り、異変解決時と普段では精神状態が変化しているため、この状態の霊夢から正しい性格を洞察するのは難しいといえる。
以上をまとめると、
1. 誰に対しても平等に接するが、優しい一面もある
2. 暢気でのんびりしており、危機感がない
3. 邪念が無く素直で無邪気な性格
4. 異変解決時と普段では精神状態が違う
5. 内面については描写が少なく不明点が多い
少々長くなってしまったが、霊夢の性格についてのおさらいは一旦ここまで。上記に挙げた性格は一部であり、霊夢からはまだまだ様々な側面が読み取れるが、またそれは別の楽曲の記事で紹介したいと思う。
◇霊夢にとっての”あなた”
『どうして・・・』の霊夢は異変解決モードではなく、おそらくは普段の霊夢のはずである。異変解決や妖怪退治に関する描写は一切ないため、これは明示的であろう。
前述の通り、誰に対しても平等に接するはずの霊夢が、”あなた”に対してとても深い感情を抱いている。その理由は”あなた”が霊夢にとって特別な存在だからなのだろう。
二次創作において、霊夢が特定の登場人物に特別な感情を抱くことは特段珍しくはない。が、私はあえて原作というレンズを通して作品を見ることを選びたいと思う。
そう、私は「歌詞中に登場する”あなた”が霊夢に与えた影響はそれほどまでに大きい」と考えたい。
誰に対しても平等で暢気だったあの博麗霊夢が、幾年もの月日を重ね、”あなた”という存在を想い、求め、その感情に戸惑いを憶える。
季節と共に移ろいゆく少女の心は、ただただ美しいと。私はそう思う。
―
ならば、”あなた”が誰であるか。それは以下の歌詞から読み解くことができるだろう。
魔を封じ。あの日、出会いは唐突に。
夢の時。本当に夢のよう。
幻想は。どこまでも続く。
怪奇の。手にかかる様で。
紅き運命は。二人を定むのか。
妖し夢。幻を見せるか。
永久の夜。何処まで続くのか。
そして春はまた巡る。―『どうして・・・』の歌詞より引用
赤字で示した漢字は原作タイトルの一部と対応している。(怪奇は怪綺談)
封魔録で出会い、それから永夜抄に至るその期間、霊夢と一緒に出演したキャラクターはひとりしかいない。
霧雨魔理沙である。
◇博麗霊夢主観の楽曲
『どうして・・・』と同じく、博麗霊夢を主観として歌詞が綴られた楽曲を紹介したいと思う。
▼『なにいろ小径』
『随』収録。暢気な性格全開の博麗霊夢を可愛らしく表現されている。茨歌仙を彷彿させる日常系で普段の霊夢といった印象がある。霊夢の「らんらー」が見られるのは三月精。この楽曲は解釈次第では「霊夢の主観ではない」と捉えることも可能。
▼『Un-Demystified Fantasy』
『謡』および『奉』収録。打って変わってこちらは異変解決モードの博麗霊夢を主観とした歌詞が一部含まれている。普段の暢気さは霊夢はどこへやら、異変の主犯を許さないという思考に塗り替えられているようだ。
▼『いつか沈み行く暗闇の中に』
『密』収録。霧雨魔理沙を見守る博麗霊夢の内面が描写されている。アルバムテーマが”秘密”である意味を踏まえると、博麗霊夢の内面は秘されている、という捉え方も可能か?
◇ブックレット
大きな霊夢の白いシルエットの中に、空を飛ぶ霊夢が描かれている。空を飛ぶ霊夢が『砂鉄の国のアリス』のブックレットに顔が向いているのに対し、シルエットの霊夢はその逆側を向いている。
『どうして・・・』の歌詞にある”言葉を失くした景色の中”は、”蹉跌の国”を暗喩しているのだろうか。歌詞についてはシンプルに配置されており、これに限らず『宴』収録楽曲の歌詞はどれも読みやすいものになっている。
ブックレットイラストは『綜纏Vol.1』に収録されている。
◇雑記
歌詞を書く時によぉく思うのは、霊夢の立場(ex.どうして、嘘のすゝめ)よりも、霊夢を観測する立場(ex.二色蝶)の方が明らかに楽だということです。幻想少女をインストールするのはむつかしい。それよりも、幻想を幻想のまま、そのまま述べる方がスマートだと思う時もあるにはある。
— RD@凋叶棕 (@rdwithleaf) 2013年11月28日
―
博麗霊夢を主観とした、霊夢の立場で何かを観測する作品はRDさん自身でも難しいと認識しているようだ。
公式書籍の霊夢には喜怒哀楽の激しさがあり、暢気であり、面倒くさがりやでもあり、そんな普通の少女のようでありながら、どこか付け入る隙がないようなミステリアスな雰囲気も持ち合わせている。
もしかすると、『emergence』や『嘘のすゝめ』に見られるような博麗の巫女である事の不幸を経験した霊夢の、彼女なりの自衛手段なのかもしれない。
もう1つ気になる点がある。東方外來韋編 肆のクロスレビューでは古明地さとりに対して‐1点という底を割る点数を付け、「絶対近づいてはダメ」と警戒心がMAXの状態であった。
心を見透かされるのは誰でも嫌なものだが、博麗霊夢のその警戒の仕方はやや過剰なようにも感じられる。やはり、何か意図的に隠している内面があるのではないだろうか。
博麗霊夢について、ZUN氏はこう述べている。
これまで霊夢の視点で何かを作ったことはないんです。
ゲームは全部神視点だから本人の性格は、本人にしか知らない。
僕にはちょっとわからない。―『東方外來韋編 壱』 p.45より引用
博麗霊夢の心の奥底には何が潜んでいるのか、
それは神ですら知らない事なのだ。
後継者 自分が死んだ後のことを気にしているため心を隠している。と思う。
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