Featured in: 綴
track: 5
arrangement: RD-Sounds
lyrics: RD-Sounds
vocals: めらみぽっぷ
original title: 少女が見た日本の原風景
length: 07:06
◇概要
『綴』に収録された常識に囚われない早苗さんのボーカルアレンジ曲。
『綴』はサークル『ふぉれすとぴれお』などへ寄稿された楽曲を中心に収録されているが、この楽曲は完全新規書下ろしとなる。
人間の世界との別れは恐怖であったが、それ以上に奇跡を起こす力を持っていた彼女にとって、奇跡の世界へ行く事は楽しみであった。
―『東方風神録』キャラ設定.txtより引用
外の世界で育った早苗にとっては幻想郷は奇跡の世界であり、その空にはコケティッシュな妖精たちに、化け傘の妖怪に、未知なるUFO、憧れのロボットも・・・。そんな幻想にあふれた外の世界とは違う『パラレルな空』への喜びを、めらみぽっぷさんによりアップテンポに歌い上げられている。
そしてその数年後…
―どこまでも“志高き冒険者”であれ!
『改』では『パラレルスカイ ~Ambitious Explorer』として生まれ変わる。Pe〇fumeなテクノな曲調に再編曲されており、歌詞も若干変わっている(コケティッシュは犠牲となったのだ・・・)。
『改』にて変わった部分なども交えて、『パラレルスカイ』を再考していきたいと思う。
◇ウェストミンスターの鐘
日本で育った人ならば『ウェストミンスターの鐘』のメロディーを一度は耳にしたことがあるだろう。ある時は学校で、ある時は街で、ある時は職場で、と聴く機会の多いチャイムのメロディー。『パラレルスカイ』はこの鐘の音より始まるのだ。
ブックレットの制服を着た早苗から察するに学校のチャイムの音である事が伺える。学校のチャイムといえば休憩時間の始まりと終わりを告げる鐘。これは学業からの開放と自由の象徴とも言える。
つまり、『ウェストミンスターの鐘』は早苗さんにとって自由と楽しい事を表す音色なのではないかと推測できる。幻想入り前の暗い過去を描かれる場合も多い早苗さんだが、『パラレルスカイ』の早苗さんはきっと楽しい学校生活を送れていたのだろう。そう思いたいが・・・
銀色の風が吹く
まぼろし色の風が吹く
かつてのすべてを吹き飛ばしてしまうように―『パラレルスカイ』の歌詞より引用
うん・・・?「かつてのすべて」ってなんでしょうね?早苗さんには吹き飛ばしたい過去でもあるんでしょうか???
・・・と、深読みしたくなるが、おそらくここの「かつてのすべて」は「外の世界の常識」の事だと思われる。早苗さんに闇はない。いいね?
◇『改』での変更点
『改』にて『パラレルスカイ ~Ambitious Explorer』として生まれ変わったわけだが、具体的にどこが変わったのだろう。編曲が変わっているのは聴けばすぐに分かるが、そこだけじゃない。
まずは歌詞。文字数で言えば、全体的に4分の1程度減っている。早苗さんが妖精と出会う下りが削られているなど変更点がさまざまあるが、やはりイントロにもあった以下の歌詞が気になる。
ほら、ここがパラレルな空
踏み越えた私だけが、
こんな奇跡と、歩んでゆける。―『パラレルスカイ』の歌詞より引用
『綴』の『パラレルスカイ』では3回使われている印象的な一節が『改』では使われていない。これだけでもだいぶ印象が変わっている。タイトルと同義である『パラレルな空』という歌詞も無くなったと思いきや、しっかり新しい歌詞が追加されているので安心してほしい。
ブックレットの変更点について。早苗さんの格好がセーラー服から風祝の衣装へ変更されている。綜纏のコメントにもある通り、『改』の早苗さんは幻想入りした後のイメージなのだろう。以下の歌詞から少し考える。
―ここは何て素敵なワンダーランド?
―『パラレルスカイ』の歌詞より引用
この歌詞、『綴』では ”?” が付いているが、『改』では付いておらず断定しているである。普段はあまり気にならない部分だが、口語的な表現が多い歌詞という媒体ならば、なにか意味があるのではないか。
疑問から断定へ変化したプロセスに『そう思う事に納得がいくための経験を持っている』という思考があると思われる。昔は ”ワンダーランド?” と懐疑的だったが、今では ”ワンダーランド” と断定できるようになった、そういった時間の変異があるように感じる。つまり、『改』の方がやや未来なので幻想入り後の風祝の姿ということなのかも?
感嘆符や疑問符への感じ方については個人差が大きいのであくまで私の感覚上の話となる。
◇合わせて聴きたい楽曲
原作にいろいろな早苗さんがいるように、凋叶棕にもいろいろな早苗さんがいる。なので比べて聴くことで、『東風谷早苗』というキャラクターの魅力が見えてくることだろう。
▼At least one word
『辿/誘』収録。幻想入り前のきれいな早苗さん。制服という点では共通しているが、キャラクター性は『パラレルスカイ』とのギャップがあるので合わせて聴くと楽しい。ちなみに卒業の季節なのでセーター着用。
▼ブレイブ・ガール
『奉』収録。人間の世界との別れへの恐怖に打ち勝つ勇気ある早苗さん。風神録の早苗さんは言葉遣いからして緊張した様子だったのかもしれない。ある意味、『パラレルスカイ』と対をなす楽曲。
▼encourager
『望』収録。里に住む人間視点から見る早苗さん。いや、ここは「早苗さま」と呼びたい。『パラレルスカイ』も含め、上記で紹介した曲はいずれも早苗さん主観の楽曲だが、この楽曲は第三者視点となる。あんなにはっちゃけていたり、緊張していたりした彼女も、今では立派に布教活動をしています。
▼星蓮 「ウルワシのベントラー」
『奉』収録。星蓮船の早苗さん。私の感覚では、『パラレルスカイ』と近い早苗さんだと思う。あんなにはっちゃけていたり、緊張していたりした彼女も、今では立派に妖怪退治をしています。
◇ブックレット
セーラー服を着た早苗さん(※メッセ顔ではない)、パラレルな空に溢れる幻想たち。色とりどりの星、妖精、多々良小傘の傘、封獣ぬえの羽、UFO、ヒソウテンソクの腕など、早苗さんの興味があちこちへ移っていくような好奇心溢れるイラストとなっている。
イラストは『綜纏vol.2 二旅』に収録。
綜纏のコメントによれば、早苗さんが蛙や蛇の髪飾りを付けていないのは派手な髪飾りはダメという校則があるからとのこと(はなだひょうさん設定)。同じくブックレットで制服を着ている『At least one word』や『アイ・リトル・ヒーロー』のイラストでも髪飾りをつけていないコダワリっぷりが素敵。
『改』のジャケット裏(阿求側)には、綴版『パラレルスカイ』のブックレットを模した彫像。ジャケット表(アリス側)には右下に副題『Ambitious Explorer』と思わしき文字がある。
『改』、『パラレルスカイ ~Ambitious Explorer』のブックレットでは、制服ではなく風祝の姿となっている。実は凋叶棕のブックレットで、風祝の早苗さんが描かれたのはこれが初。台座のリボンは、ジャケットの台座と同じカラフルなドット柄。
◇雑記
『東風谷早苗』というキャラクター、それは”真面目”だったり、”清楚”だったり、”さでずむ”だったり、”この変なTシャツヤロー!”だったり・・・さまざまな側面がある。『パラレルスカイ』では幻想郷に来たばかりの、喜びと期待に満ち溢れた早苗さんが描かれている。
だが、それだけではなくて、Cメロの歌詞にふと”真面目さ”を感じさせるようなフレーズもあり、深い味わいがある。そういった早苗さんの多面的で人間らしいところに私は魅力を感じるのである。
『東風谷早苗』の楽曲は常識に囚われない曲配置になることが多い。『綴』でも『改』でも『パラレルスカイ』を挟んでいる両サイドの楽曲の雰囲気が・・・。そういう雰囲気を壊していくのも早苗さんの魅力でもある。
―越えて、何にも囚われず、自由、溢れる、空へ!!
―『パラレルスカイ ~Ambitious Explorer』の歌詞より引用
凋叶棕といえば”空”。
阿求にとっては『幻想浪漫綺行』の”幻想の空”、魔理沙にとってはスターシリーズの”星空”、早苗にとっては”パラレルな空”。同じ空でも見る人で見え方が違うと考えると、もっと他のキャラクターにとっての”空”について思いを馳せたくなってくる。