Featured in: 宴
track: 8
arrangement: RD-Sounds
lyrics: RD-Sounds
vocals: めらみぽっぷ
original title: 月時計 ~ ルナ・ダイアル
length: 05:49
◇概要
『宴』の8曲目として収録されたボーカルアレンジ楽曲。
『東方紅魔郷 ~ the Embodiment of Scarlet Devil』に登場するキャラクター「十六夜咲夜」をイメージして製作されている。”イメージ”という言葉を使う意図としては原作に登場する十六夜咲夜を直接表現した、というよりは世界で最も有名な未解決事件として語られる『切り裂きジャック事件』の世界観を十六夜咲夜に重ねた表現をされているからだ。
原作ファンの間でも、十六夜咲夜の俗にいう”元ネタ”のひとつとして『切り裂きジャック事件』が語られることも多い。
実際、原作の技・スペルカード名に『切り裂きジャック事件』を連想させる要素がある。(ZUN氏の趣向的には森博嗣の小説『詩的私的ジャック JACK THE POETICAL PRIVATE』のジャックでもあるかもしれないが)
・幻幽「ジャック・ザ・ルドビレ」
・ジャック・ザ・ルドビレ
・ジャック・ザ・リッパー
・アンビシャスジャック
・ミステリアスジャック
・時符「ミステリアスジャック」
・幻葬「夜霧の幻影殺人鬼」
そして『月光照らすはシリアルキラー』に登場する単語にもジャック要素がある。
・霧満ちる都市…『切り裂きジャック事件』の舞台、霧の都ロンドン
・人気も途絶えた暗い通り…実際の犯行現場は人目のつかない場所
・午前二時過ぎ…実際の犯行時間は深夜
・殺人鬼…ジャック自身
・ナイフ…凶器
この通り『切り裂きジャック事件』の要素が強い楽曲であるため、これらを念頭に置いて考察していく。
◇誰が『ジャック』なのか?
『月光照らすはシリアルキラー』に登場する人物は「十六夜咲夜」、「紳士」の2名であり、歌詞にあるダブルクオーテーション ” ” は「十六夜咲夜」のセリフ、二重括弧『 』は「紳士」のセリフとなる。ストレートに考えるならば十六夜咲夜の曲なんだから「ジャック」=「十六夜咲夜」だろうと考えるところではあると思うが、待ってほしい。
”嗚呼、嬉しいわ 今宵私の相手は貴方?
ねえ、過ごしましょう 蠱惑的で幻想的な一夜を”―『月光照らすはシリアルキラー』の歌詞より引用
この十六夜咲夜のセリフから察することができるのは、十六夜咲夜が紳士の夜の相手を務める娼婦である可能性である。実際に起こった『切り裂きジャック事件』の被害者は20代~40代の娼婦。「ジャック」=「紳士」の標的として娼婦「十六夜咲夜」が選ばれた、とも考えられるのだ。
また、以下の歌詞の殺人鬼のルビに注目する。
『嗚呼、イケナイよ 殺人鬼を悪戯に駆り立てる言葉』
”ねえ、怯え惑うものにこそ殺人鬼は現れるそうよ?”―『月光照らすはシリアルキラー』の歌詞より引用
余談ですが、この楽曲の中ではここの歌詞が一番好きです。セリフの前に原作STG的な煽り合いをしているところもGOODですね。さて、紳士は殺人鬼をカレと呼び、十六夜咲夜はカノジョと呼んだ。これをどう捉えるか。
①「紳士」は「ジャック」。正体は男性であると当然知っているため、自らカレと呼んだ。しかし、目の前の淑女も殺人鬼であった。
②「紳士」は「ジャック」の正体を知らず、犯人を男性と考えているが、実は目の前の淑女「十六夜咲夜」が「ジャック」だった。
私が考えるにこの2通りの捉え方が自然か。どちらにしても十六夜咲夜はシリアルキラーに違いないと思われる。ここで以下の歌詞が出てくる。
男と女は踊る、お互いに狙いを定めて
―『月光照らすはシリアルキラー』の歌詞より引用
そう”お互いに”狙いを定めているのだ。この歌詞があるため、①の説が信憑性が高く、②の説である可能性は低いと考えられる。(ただ『紳士』が性的な意味で咲夜さんに狙いを定めているの可能性も否定はできない!)
個人的には①の説が好きです。十六夜咲夜が紳士を殺す動機がジャックへの復讐のため~と考えるとドラマがあって楽しいですし。
◇殺されたのはどちらか
月を背に殺人鬼は牙を剥いた・・・!
―『月光照らすはシリアルキラー』の歌詞より引用
月夜に嗤う紅い眼をした狼に殺されたのはどちらになるのか。時間を止められる相手に勝てた紳士sugeeeeeeeee!ってなるので、おそらく殺されたのは紳士と考えるのは自然である。(紳士に殺されたことで十六夜咲夜が幻想入りしたと考えるのも一興ではあるが)
ここで注目したいのは紳士ではなく、歌詞に登場する昏い眼と紅い眼の話である。
原作の十六夜咲夜には2通りの眼が存在する。紅魔郷の咲夜は紅い眼をしているが、紅魔郷以降の咲夜は青い眼をしているのがデフォルトで、黄昏作品のドット絵では特定のスペルカード宣言時に目が紅くなる演出がある。原作ファンの間ではよく知られた話であり、二次創作イラストでは能力発動時は紅い眼になるといった描き分けをされている場合が多い。
『月光照らすシリアルキラー』における眼の変化は、1コーラス目のサビ:昏い眼 →2コーラス目のサビ:昏い眼 →ラストサビ:紅い眼、となり、襲い掛かった後に殺人鬼の眼は紅になっている。昏い眼を普段の青い眼と捉えれば「狼」が指す人物は始終「十六夜咲夜」であり、能力を発動させ一瞬の間に紳士の躰をバラバラに切り裂いたと考えられるだろう。
ただ、『昏い眼をした狼』を『紳士』と捉えて、眼の色が紳士と淑女の対比になっているとも考えるのも面白いか。その場合、”流麗蒼美の瞳”→”紅い眼”の変化と捉えてみるのもあり。
◇ブックレット
ワイングラスから零れる宵闇、紳士と淑女の白いシルエット、十六夜の月、紅い花と血。シンプルな歌詞配置と控えめな色使いもありRDWLナンバリングの楽曲では歌詞が読みやすい度トップクラスである。
ブックレットイラストは綜纏Vol.1に収録されている。はなだひょうさんによるこだわりポイントは歌詞の『月夜に嗤う紅い眼をした狼』の『紅』の部分に血が重なっている部分とのこと。
紅い花で連想するのはColor&Color – 虹色パレット収録の『F to bloodstain』。この曲も十六夜咲夜をテーマに製作されている。
◇雑記
凋叶棕における物語音楽の黎明にあたる曲で、めらみぽっぷさんによる人物の歌い分けがされている。その後に続く、『貴女を幸せにするために』や『she’s purity』なども同じようにめらみぽっぷさんによる絶妙な歌い分けがあり、ストーリー性も高い曲となっている。
この『月光照らすはシリアルキラー』は、『宴』のキャッチコピーにもあるように『東方好き』ならではのネタも織り込まれ、原作の知識は当然のことながら、東方好きなら調べている元ネタの知識まで知っていればもっと楽しめる、オタク心くすぐる非常に凋叶棕らしい楽曲ではないだろうか。この曲で凋叶棕沼に嵌ったという人も少なくないのでは?
原曲の使い方はアレンジのサビに原曲のサビを持ってくるシンプルな構造で凋叶棕にしては比較的分かりやすい構成。要所要所のルビも効果的でブックレットの歌詞も読みやすい。そういった意味では入門者向けの曲ともいえるだろうか。
この楽曲には三次創作本が存在し、C80にて頒布されたSS本『銀の月と殺人鬼/Second-Lib』がある。残念ながら2018年現在では正規ルートでは手に入れる方法はない。
1888年のロンドンで起こった未解決事件『切り裂きジャック事件』。それは明治17年に博麗大結界が張られてから数年後に起こった事件である。・・・なんだか物語を感じませんか?
イントロでもう…っ
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